訪問時には実際にXLN Audio製品を使用したプロジェクトも私たちスタッフに披露いただき、改めて大沢さんのクリエイティビティに驚かされた私たちではありましたが、その中で伺ったお話の一端をインタビュー形式にてレポートしていきます。
Q:大沢さんはXLN Audioブランド初の製品、Addictive Drums(ver.1)をリリース当時の2006年より使っていただいていますが、ADをはじめて扱った際の印象について伺わせてください。
当時マルチサンプリングをフルに活用できる使えるドラムソフトウェアってなかったですよね。みんなもそういったソフトを待っていたと思うんですけどAddictive Drumsは一番早かったと思うんですよね。使い始める前にはものすごく重いエンジンになるだろうとか想像していたんですけど、実際には全然そんなこともなくて。
僕は割と初期のころから特にプロデュース楽曲に使ってましたね。ドラムの音源をまるまる使うというより、ミックスで追い込んで使ってました。ちなみに『大沢伸一の仕事』に収録している「サクラスパイラル」っていう曲のドラムはAD1で作りましたよ。
サクラスパイラル / ナゴミスタイル
ただ、使いどころというか、活用には意外と困っていた人もいたんじゃないですかね。例えばドラムを打ち込む人って皆が皆、ドラムに対する造詣が深いとは限らないじゃないですか。なのでドラムのどこにマイクをあてて、エンベロープを卓のゲートで切る、っていうような機能は既にver.1からあったじゃないですか。そういうことも含めてそこまで扱える人ってそんなに多くなかったんじゃないかな。だから当時からすると市場に対してオーバースペック気味な機能だったかもしれないですね。
Q:2014年にはver.2となるAD2がリリースされましたが、滞りなくバージョンアップできましたか?
はい、バージョンアップは自然に移行できましたね。2017年にリリースしたアルバムの「TIME」っていう曲のドラムはAD2を使って作りました。
MONDO GROSSO / TIME
Q:普段リズム隊の音作りってどのように行われているのですか?ADの活用についても伺わせてください。
そこはあまりルールがなくて、臨機応変にハイハットだけ生っぽい音に差し替えるときだったり一発だけADを使ったりもしますね。それと生のドラムレコーディング前のデモでADを扱うケースも多いです。
Q:お気に入りやよく使うキットを教えていただけますか?
Vintage Dryのキットをよく使っています。それとIndieですね。あと全然キャラクターが違いますけどBoutique Malletのマレットも好きですね。
Q:サウンドの処理はどのようにされていますか?
AD内蔵のEQやダイナミクスで処理して、その後にもトランジェントやゲートのプラグインで処理して使っています。さらにトータルでコンプとEQとエキサイターを何重にもかけています。
Q:大沢さんはサウンドに対して斬新なアプローチを施されていることも多いように思うのですが、ドラムをはじめ全体のサウンドデザインにかける時間や労力は楽曲制作の中でどれぐらいの割合を占めているのでしょう?
難しい質問ですね…ただそれが全てかもしれないですね。ずっとやっているんで曲作りには飽きちゃっていて、そうすると新しいこと、自分が面白いと思うものを探すっていうことに尽きるじゃないですか。そこから先は、一個アイデアやモチーフができたら、そのうえに何かを足していったり、という作業になりますよね。なので、そのアイデアの素になるようなものを出すことが、もしかしたら一番時間がかかることかもしれないです。
アイデアを出すというよりもひたすら実験をやるっていうことで、ちょっとでも面白いと思うものが出来れば、捨てずにずっとそれを溜めていくんです。基本的には、何かになる可能性があるんじゃないかなっていうのはシーケンスでもサンプルでもなんでもストックしていくんですね。新しく「このために何かを作る」っていうとき、都度そのためのベストなアイデアって中々出てこないんです。なので、過去に自分がランダムに散らかしたおもちゃ箱みたいなものの中から何かをアサインしてっていう作業です。結局、人間の頭なんてあまりフレキシブルに出来ていなくて、大体一つの楽曲を作るとき、コードとかいろんなパターンとかアイデアってせいぜい5つか6つぐらいしか出てこないんですよ。自分の中で考えてもいないようなものを作ろうとすると、そういうストックと、また別の何かをぶつけるしかないんですよね。雑な事や出鱈目なことをやらないと新しいものって生まれないんです。それはストックと呼べるようなものでもなくスケッチのような、音の断片みないなもので、それをひたすら溜めていくんです。もう10年以上そういう作り方を続けています。
Q:大変参考になります。XLN Audio製品の話に戻るのですが、2017年のMONDO GROSSOのプロジェクトではRC-20 Retro Colorも多く扱われていると伺いました。
そうですね。Retro Colorも多用しています。
Q:Retro Colorの使いどころとして、特にどういったシチュエーションで効果があると感じられますか?
Retro Colorに関しては説明が難しいですね…ただ、Retro Colorがあるのとないのとではリアリティ、現実味が違うんです。
Q:大幅なパラメータ操作だったり、劇的なエフェクトとして使われたりもするのですか?
いや、僕はあまりそれはやらないかな、わざとらしくなってしまうんで。ただ、あるのとないのでは全く変わりますよね、特にピアノの音で。これが全然違うんですよ。微妙な差異なんですけどあるのとないのでは雲泥の差なんです。僕が好きなのはWOBBLE(パラメータ)かな。やりすぎるとださいんですけどね。
それと、あざとくなってしまうのでできるだけNOISEのパラメータは使わないようにしています。NOISEを使うときはVINYLの音よりかは、DCとかにしてダッキングでうっすらかけていくぐらいの感じです。
Noiseプリセットのメニュー画面様々なビンテージ機器の特性が選択できる
Q:Retro Colorのピアノへのインサートはソフトウェア音源特有の主張を抑えるような使い方ですか?
プラグインの音源でもピアノといえばピアノの音なんですけど、Retro Colorを挿すと、「どこのスタジオで録ったの?」っていう音になるんです。ポイントはその違いのテイストの問題で、楽器が変わっちゃうというか、僕にとっては劇的なんですけど、ただめちゃくちゃ音色を変えるエフェクターとは違うんですよね。
あと、この楽曲(注:『Attune / Detune』収録の「One Temperature」)のピアノは劇的に変化させて使っています。ホンキートンクをわざとRetro Colorで作っているんです。このピアノはRetro Colorを挿さないと普通の打ち込みのピアノの音になってしまうんですよ。あとこの曲はベースにもRetro Colorを使っています。ストリングスへの効き方も絶大ですね。
MONDO GROSSO / One Temperature
Q:プラグインのインサート場所は一番前に使っているんですね?
そうですね。楽器に一番近い場所に置いています。Retro ColorはBanana Fishのサントラでもほぼ全曲に使っていますし、生楽器と生楽器のシミュレーションと、それとシンセによく使っています。WOBBLEとMAGNETEC、あとはディストーションも良い効き方をしていますね。古さが出るというか、それも単に古いというわけではないんですよね。
WOBBLEのパラメータノブで揺らぎの深さを調整できる
Q:XOもリリース当初から扱っていただいていますが、導入された際の所感(音質、エフェクト等内蔵機能)を聞かせていただけますか?
早速使っていますよ。XOは動作が軽いんで3つ、4つと各セクションごとに使ったりしています。XOの内蔵シーケンサーもめちゃ使ってますよ。XO内でパターンを組んでドラッグして鳴らす。フィルとか細かいデータはDAWで行いますけどDAWでシーケンスを組むよりXOで組んだ方が楽なんです。
機能に関して言うと、XOよりもADはもっと肌理細やかでしょ。できれば細かくキットの調整ができたり、ADの機能をXOでも搭載されることを望んでいるんです。
ADに戻りますが僕が一番便利だなと思ったのがトランジェントの考え方。これがめちゃくちゃ優秀で、しかも(ピーススロットやバスチャンネル)単体でもトータルでもできるんですよね。例えばキックのトランジェントShape コントロールをマスターと他のチャンネルを別にかけられるんですよね。トータルでかけることもできるし、バスでサスティンが出てたらよりタイトにすることもできるわけで、こんなことできるマシンはほぼないんです。これは本当に凄い。だからこのサウンドのトリートメントのところをXOにもできたら、こんな凄いことはないです。
EDIT画面ではチャンネルごと個別にダイナミクスやチューニングが設定できる
XOはトータルでピッチをかえることができるのはおもしろいですけどね。シーケンスのACCENTUATOR機能も好きですよ。これランダムにも面白いリズムが出来るんで、刻みものによく使いますね、ここの考え方もすごく理解できる。
シーケンサーはすごくいい感じに作られてますね。この中でリズムを完結しちゃってても、また違うリズムを組めますしね。
画面下のACCENTUATORスライダーを使ってシーケンスのアクセントを自由に、ランダムにも変更できる
Q:ありがとうございます。製品のインタビューとは少し逸れますが、大沢さんが普段機材やソフトを導入される際、製品のどのような点を重視して購入されることが多いですか?
機材選びに関しては皆が使っていないものを選ぶことも一つですし、それと僕ら今、情報に関してもなんでもかんでも選べる時代になってるわけじゃないですか、そうするとその中から自分に一番ピンとくるものって逆に選べないんですよ。それで最近は制限を設けていて、今実際にやってることとしてはXOとTONE2のプラグインの1種類しか使わないで、これだけで曲を作るっていうことをやっています。
Q:情報のインプットやチョイスをどのようにされているかという点も聞きたかったのですが、逆にあえてそこは今、制限されているなんですね。
そうですね。むしろフィルターをかけています。如何に他にないものを作るか。ということですね。
Q:先ほど10年以上、現在の制作スタイルを続けられていると伺いましたが、逆に楽曲制作の中で毎度変えていっていること、もしくは変えていないことなどあれば教えていただけますか?
変えていかないものってあまりなくて、変えようとしても結局変わらなかったものが変わっていかないものですよね。変わることが当たり前だと思ってやっていっているんですけど、その中で何かを置き換えようとしても変わらなかったようなものが個性のような、変わらないものなので、あまり意識していないですね。常に変えようと思っていますよ、全部を。できたら全部を変えたい。
Q:毎日毎回の積み重ねで進化させていく、というイメージでしょうか?
そうですね。でもその点では楽器の音色とかでも影響しますよ。ずっと使っていたソフトを使うのをやめて、新しいものを使うようになった途端にアイデアが出てきたりもするので、そういった意味で今回はXOとTONE2だけを使ってやっていて、しばらくは新鮮ですね。
Q:工程の中に刺激のエッセンスを加えていっているんですね。
でないと、人間なんでどうしても慣習のほうの親近感に持っていかれるでしょ。聞きなじみのあるものの方が、なんとなくいいんじゃないかなと思ってしまいがちなんで、そういうのを断ち切るために音を変えたりとか、制限を設けないといけないですよね。
大変参考になりました。本日はお忙しい中、ありがとうございました!
大沢伸一(MONDO GROSSO)
英語表記:SHINICHI OSAWA(MONDO GROSSO)
音楽家、DJ、プロデューサー、選曲家。リミックスを含むプロデュースワークでBOYS NOIZE、BENNY BENASSI、ALEX GOHER、安室奈美恵、JUJU、山下智久などを手がける他、広告音楽、空間音楽やサウンドトラックの制作、アナログレコードにフォーカスしたミュージックバーをプロデュースするなど幅広く活躍。2017年14年振りとなるMONDO GROSSOのアルバム『何度でも新しく生まれる』をリリース。iTunesアルバム総合チャート1位、オリコンアルバムランキング8位、満島ひかりが歌う「ラビリンス」ミュージックビデオが1900万回以上再生されるなど音楽シーンの話題となった。2018年3月には立て続けに続編アルバム『Attune/Detune』もリリースした。また、アニメ『BANANA FISH』の劇判を手がけた事も話題になったばかり。
www.shinichi-osawa.com
www.mondogrosso.com