今回は野崎さんのクリエイターとしてのルーツに加えて、音楽に対しての取り組み方、自身の奏でる音楽制作ツールとして使用するMOTU Digital Performer(以下:デジパフォ、DP)についてお話を伺いました。
Q:普段野崎さんが楽曲制作で使われているDAWソフトって何なんでしょうか?
基本ずっとデジパフォです。最近だとカラオケの企業で使われているデジパフォの記事を読んで、懐かしいなって思いました。大学生のまだ18-9歳の頃、カラオケの音源づくりのバイトが回ってくるんです。当時ローランドの共通の音源使って、Vision、いやVisionでもなかった、レコンポーザを使ってました。僕の年代は、数字で音楽を作ってた最後の世代なのかもしれない。他のソフトもMIDIをより扱いやすくなってきてはいるけど、デジパフォの場合は数字でも触れて、圧倒的に使いやすいなって思います。
Q:大学生の当時はハードウェアでの制作を主としていたのでしょうか?
ハードウェアでやってました。ソフトも使い始めていたんですけど、当時はまだ若者で、持っているコンピュータもパワーのあるものではなかったから、プラグインだなんだってソフトや機能を使っていくとすぐ動かなくなるし、あまりソフトウェアに重点を置いていなかったんです。それは単純に動かないから、っていう理由で。
それまでがずっとハードウェアで来ていて、その時点でいうと、ハードウェアの方が歴も長いし、ハードウェアを使う方が楽だったんです。実は今、僕がどこに着地したかというと、まず最初にデジパフォ立ち上げて、コルグのキーボードのシーケンサーモードで16チャンネルの音源を立ち上げて、それでやるのが一番楽チン。16チャンネルの音源を立ち上げて使うのは、僕の高校生からのデフォルトなんだけど、それが一番やりやすいなって。
Q:音源はキーボードのものを立ち上げて、デジパフォで打ち込むスタイルですか?
デジパフォで打ち込んでます。友達でチェリストのRobinはAbleton LiveしかDAWソフトを知らないんだけど、とにかく、テンポの設定とか、”生”的なアプローチができないって言ってて。昔に比べたらできるようになってきたんだろうけど、結局演奏できる人はそこの問題に行きつくんだと思います。LiveとかLogicとかってすごくいいソフトだと思うんだけど、どちらかというと向こう側(DAW側)のBPMに支配されるというか…例えばデジパフォだったらMIDIの選択とかも小節を飛び出たりしますよね。グリッドというか、MIDIで打ち込んでデータを選択したときに、他のソフトかとは違う感じで視覚的に見えたりするんです、選択範囲が。
DPでMIDIレコーディングを行った様子。空白の箇所は検出してリージョンが分割されて編集が容易になる。
DPのシーケンスウインドウの様子。演奏したMIDI NOTE情報に加えてベンドやモジュレーションの情報など、複数のMIDI情報を同時に表示し、リージョンの状態の詳細が把握できる。
Q:それはデジパフォが他のソフトよりも非常に高い分解能に対応しているとか、そういった特性からくる恩恵なのでしょうか?
たぶんそうだと思います、ノリが出せるというか。それってすごく生演奏に通じるところがあって、視覚的にきまりきったものだと、気持ち的にこっちも自由な感覚で作れないんです。他のソフトのテンポの変更やそういう感覚は、僕からするとちょっと理解が難しいんです。デジパフォとか、Pro Toolsとかのやり方に慣れていると特に。だから変えていってる上で更に小節に支配されていく感じが、やっぱりずっと慣れなくて。抑揚をつけたい音楽に必要な要素を今の新しいソフトはすごく置いてきぼりにしてしまっているかなって思います。音楽の要素の一つとして、テンポの概念はすごく重要なのに、そこがすごく置き去りにされているなって。この間、生演奏のアコースティックツアーだっただけに、そういった話題をRobinとしていて、彼もすごくデジパフォに興味を持っていました。
Q:プレイヤーのテンポ感を正確に表せている、ということなのでしょうか?
レコーディングするときは外部のスタジオで録ったりするから、家でデジパフォで録る時って、自分のシンセだったりアウトボードのものを録るんです。するとやっぱりMIDIで音楽を制作していくってなるとデジパフォの自由度に勝るものはないと感じますね。あとはなんたって、一個のソングを立ち上げて、何個もシーケンスが作れるじゃないですか。ほかのソフトだと一曲一曲立ち上げないといけないんですけど。場合によっては曲Aで使っていた過去のフレーズを曲Bにもっていきたい、っていうときに作業がものすごくめんどくさかったりするんだけどデジパフォの場合、それが一瞬でできる。
僕の場合、一個プロジェクトを立ち上げたらたくさんシーケンスを作るんです。別名ABCDEFG、、、みたいにたくさん作って。特に、オファーを受けた制作の場合って、一曲に対して、何曲もアイデアが出来上がるんです。例えば、ドラマのテーマ曲を作ってくださいっていう場合、一個じゃなくて何個も出来上がる。人にもよるけど僕の場合はアイデアを、同じ一個のファイルにまとめたいんです。そういうのがやりやすんですよね。それができるのって、僕が知っている限りデジパフォしかない。あの機能はとってもいい機能だし、チャンクを使うと、ライブでも自由自在にシーケンスを行き来できる。
チャンクに取り込んだDPのシーケンスデータは、瞬時の切り替えに対応し、楽曲データのプレイバックや、一部トラックの抜粋などに容易に扱える。
Q:野崎さんのキャリアスタートはどういった経緯からだったんでしょうか?学生時代はMTRなどのハードウェアで制作されてたのでしょうか?
MTR使ってライブやってました。若い子にはわからないかもしれないけど、ピンポン録音とかやって、それで抜き差ししてやってましたね。ドラムトラックを抜いたりして。DJミキサーじゃ賄いきれなかったし。そのころはテクノをやってました。
Q:テクノから音楽制作をスタートされたのですか?
小さい頃からピアノをやってて、その後高校から作曲の先生に習いに行ってたんです。当時からクラシックと現代音楽の作曲の勉強を始めて、大学も引き続きやっていたんだけど、そのころはダンスミュージックとかテクノがすごく好きでした。もちろん、ジャズとかブラジル音楽とかは当然普通に通ってて、一番ぽっかり空いちゃってたのがポップスかな。洋楽には詳しかったけど、邦楽のポップスはそんなに詳しくなかったですね。
Q:機材のスタートはどこからだったのでしょう?
一番最初の機材は、高校生の頃に親に買ってもらったカシオトーンです。ある時、カシオトーンで多重録音できるってことを知って。それが2chだけ録音できるっていう機能で、単純に自分が弾いたものに対して、一緒に演奏できますよっていうやつだったんです。更にその時、キーボードマガジンでコンテストが出てたんです。アマチュアオーディションみたいなやつで、これに送ろうと思って『オリーブの首飾り』のユーロビートミックスをカシオトーンで演奏したものをカセットテープに録って、その後さらに合計4チャンぐらいになるようなものにして、送ったんです。で落選して(笑)。そこから火が点いて、音楽やるにはこういったキーボードが必要だって知って、楽器フェアとかも行ってました。そのあとKORGが01/Wっていう機材を出したんです。それを親に頼み込んで買ってもらったんですが、これが名機!僕の高校は東京にあって、当時ダンスがすごく流行ってて、僕の同級生なんかもみんなダンスが好きで。そのころオリジナルダンスミュージックを作る!っていう話になって、01/Wとかで作るようになったんです。16歳のころとかにはオリジナルダンスミュージックも作って、みんなでドラムの音、こういう音じゃないよね、みたいなことを言ってて。試行錯誤していきました。
Q:当時制作していたのはダンス用の音源ということですか?
そうです、でもダンス用の音源だけじゃなくって、作曲の勉強もしてたから、オリジナルも作ってました。そういうのを合わせたような音楽が(葉加瀬)太郎さんがやってたクライズラー&カンパニーというグループ。あとはリアルタイムではなかったけど当時はYMOが再結成するときで、YMOにも興味をもって、そこからすごくのめり込んでいったんです。
Q:コンピュータミュージックに触れられるきっかけはどういったものだったのでしょう?
きっかけっていうと大学2年ぐらいのときですかね。なんで買ったのかは覚えていないんですけど、ある日コンピュータを買って。で、さっきいったレコンポーザで、こういうバイトがあるからやるかって先輩に言われてはじめたので、はじめて触った音楽ソフトはレコンポーザなのかな。それとローランドのSCシリーズの音源渡されてやってました。xxxx(某大物歌手)とかの曲を、完コピしなくちゃいけなくて、たぶんだから僕の作ったxxxx(某大物歌手)がカラオケで歌われてた時代があったはずです(笑)。カラオケの打ち込みは、それはもうすごく細かくて、ギターのニュアンスがこのMidi CCの何番を動かして、どうこうでこういくニュアンスを出して、とか、大変でした(笑)。でもその頃って本当の通信カラオケだから本物のギターの音を入れるわけにもいなくて、指定の音源で再生しないといけないから、なので僕はそんじゃそこらの打ち込みの人とは年季が違うんです(笑)。いつでもカラオケ打ち込みの会社で手伝える自信がある(笑)。
Q:デジパフォに触れられるようになったのは、その更に後だったのでしょうか?
そうです、レコンポーザの後にはVision。そのころは機材トレンドも色々あって。Visionを買って使って、ある時に更にStudio Visionっていうのが出て。Studio Visionはなんとコンピュータに4トラック録音できるぞって。今だったら笑っちゃう仕様かもしれないけど、当時は4トラックハードディスクでレコーディングできることって大ニュースだったんですよね。Studio Visionに換えて使っていたら今度は、ローランドがVSっていう単体のハードディスクレコーダを出すんです。そしたらケンイシイさんがそれだけでアルバム作ったとか、そういう謳い文句でアルバムだしたりして、僕はケンイシイさんの大ファンだったから。ケンさんは何使ってたんだろう、ローランドのシンセとVS使ってたのかな。僕もこれ買おうと思って、そうこうしているうちにデビューしてJazztronikがスタートしたんです。一枚目のJazztronikのころはレコーダーはVSで作ってました。
Visionがなくなって、代用できるものって何だろうって頃に選んだのがPerformerだったんです。その当時お手伝いさせてもらっていた葉加瀬太郎さんが使っていたということもあって導入しました。それが24歳ぐらいの頃かな。
Q:オーディオレコーディングできていたということは、Performerではなく、Digital Performerになってからの頃だったんでしょうね。
そうですね、だから僕が知ってるのはPerformerじゃなくてDigital Performerからなんです。17-8年前ぐらいから。
Q:そこから今に至るまでデジパフォで曲を作っている流れになるのでしょうか。
そうですね、そこからAbleton Liveも触るようになるまではずっとデジパフォです。あとはPro Toolsも導入しました。結局それは外部のスタジオとの共有にも使用するということで。
Q:今もPro Toolsは自宅でも使われているのですか?
そうです、デジパフォとPro Toolsは似たところもあったし併用しやすかったです。
Q:制作に関してはデジパフォが合ってるんですよね?
デジパフォを長く使用していることもあって、「あんな簡単なことがほかのソフトではできないの」って思います。xxxx(他社ソフト)とか。使ってて「えー!できないの!」って思う。どういう機能か忘れちゃいましたけど。
Q:ケースバイケースだと思いますが、普段の野崎さんの仕事に対して取り込みやメソッドに関して教えていただけますか?
特にないです(笑)。ただAbleton Liveはとっかかりやすいと思いますね。サンプルもポンポンいれられて、でサンプルだけじゃ足りないよなってときにプラグインもいれられて。ノーアイデアの状態の0を1にしてくれるっていうのはAbleton Liveが優れているのかもしれない。でも僕の場合そうやって作ってリリースした曲ってあんまりないんです。Ableton Liveでこんなに簡単にビート物のトラック作れるんだったら毎日のように作って、エブリデイミュージックみたいに毎日リリースしてやろうかなって思った時があって。トラックものばかりをすごい作りためたんです。でもそれだと他の人と同じようになっちゃうんです。それはそれで楽しんで作った音楽なんだけど、人様に聴かせるようなものじゃないなあっていう感覚です。
Q:では劇伴やドラマなどの楽曲制作の仕事を行う場合、まず立ち上げるソフトはDP?
デジパフォです。なんでかっていうとさっき言ったように、一個のプロジェクトの中に、言ってみたら何個でもソングをいれられるわけじゃないですか、シーケンスという名の。大量のメモを作れるわけです。あれはとっても重要ですよね。他のソフトでも時々やってたんですけど、バーっとピアノを一分間ぐらい弾いて作った後にちょっと空白空けて、またバーっと弾いてメモフレーズを作るんですけど、その管理がわかりづらくて。そのフレーズをまた別曲のMIDIにもっていきたい場合に大変だし、その点デジパフォは一瞬でできるから、特に曲をたくさん作る人、内容は別として生演奏で作る人とか、打ち込み物を作る人とかの特定の人に限らず、多作な人とかアイデアが豊富な人には、デジパフォはすごくいいと思う。
やっぱりあと、すごく単純な事なんだけど、色々テンポ変えちゃった後の、それを移動させるのが楽、とかですね。こんな単純なことが意外とほかのソフトだと大変だったりするし、付随した情報がうまく一緒についてこなかったりするし、だからやっぱりデジパフォかなあ。
僕が今ちょうど一緒に仕事している放送局の音効さんもデジパフォですよ。業界には色々なソフトがあるけど、デジパフォが一番使いやすいですよって、言って使ってます。デジパフォは音も凄く良くなってるし。
Q:最後の質問です。野崎さんの今後の活動、機材の活用のご展望について、伺えますか。
生演奏ができる人間なので、それを活かしたもので、新しいテクノロジーも導入した作品が作りたいなって思ってます。じゃないと乱暴な話、ソフトウェアでサンプル取り込んで、簡単にサンプル組み合わせるだけでも曲が作れてしまう状況ですから、それと同じになっちゃうし、それだと自分が満足できないっていうのもあります。だから生音というか人間の演奏しているものをテクノロジーでどうにかするっていうことはやりたいなって思います。制作でもライブでも人間が演奏する、人間が何かをするっていう音楽に重点を置いてこうと思っています。
所謂ミュージシャンとして認知されていない場合は機材を駆使したライブもいいんだろうけど、僕の場合はライブでつまみだけいじってると「なんで演奏してくれないの?」って言われてしまうので。そういうライブも面白いんですけどね。だから機会があったらそういうライブももうちょっと面白く見せられるようにしたいなって思っています。マイクやDAコンバータも安くていいものも出てきたし、ライブでの用途や機能にも優れているんだったら、例えばピアノ弾きながら機材をコントロールして、そういうところでリアルタイムに何か機材を介して、ピアノの演奏の音色を、例えば右手で演奏して左手でフィルターいじって、生演奏の音が変わってくるとか、実現可能になってきたんで、そういう面白さはチャレンジしたいなって思うんです。
本日はお忙しい中、貴重なお話を伺わせていただき、ありがとうございました!
野崎良太インフォメーション:
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