2016年5月18日には0.8秒と衝撃。のJ.M.、Dragon Ashのkj、そしてcoldrainのMasatoとCrossfaithのKoieとのコラボ3部作から続いて作り上げた、AA=の5枚目のアルバムとなる“#5”を発表。現在アルバム発表に伴うAA=TOUR #5を敢行中で多忙な中、今回お話を伺った。
転換期を迎えつつある世界に対しての危機感が今回のアルバムのテーマ
今回のアルバム“#5”に関して、そのテーマは昨今の世界の状況に関して、ある種の危機感を上田さんご自身が感じてらっしゃる、ということなのでしょうか?
そうですね、わりと普段自分が考えているようなことが歌詞になっているんです。 今、世界のいろんな事が変わりつつある転換期なんじゃないかな、と思っています。ちょっと恐ろしい方向というか、そういういろんな流れが変わるきっかけになる時というか、時代なんじゃないかなと思いますね。もちろんいろんな問題はあるんですけど、大きな問題としては格差の問題が広がっているし、それに関連して暴力的な動きが世界中にはびこってきているし、また逆にそれらに対抗してそうした動きを排除するというか、分断するというか、そういう動きもありますしね。ちょっと政治的な話になると、凄く保守的というか、孤立しているような動きも増えているような感じで、ヘイト的なものとか増えてますよね。こういった流れは今後しばらく続くだろうし、それが続くと世界はいい状況には向かっていかないだろうと。こういう時代にそれをどうやって乗り越えていくか、憎しみが連鎖していくと恐ろしい方向にしか行かないですしね。今、生きている僕たちがどうやってそれを解決していくべきなのかが、アルバムのテーマになっていますね。
今回のアルバムはそうしたテーマが反映されているんですね?
言葉としてはそういうテーマが多いですね。普段わりとそういうことを自分で意識しているのでそれが表れているんじゃないかと思います。今回は制作期間が割と短い状況だったので、テーマも一貫しているというか、素直に自分が思っていることがどんどん出てきたっていう感じですね。サウンド的にもそうですね。
今回のアルバムを聞かせていただいて、攻撃的なサウンドでありつつも無機質なデジタルサウンドと適度なポップ感も若干あってとてもその混ぜ具合がとても絶妙だと感じました。パンク、インダストリアル的なロックテイストとエレクトリックなシンセやドラム、ヒップホップ的なボーカルもあり、非常に多様な感じがします。今回はレコーディングからミックスの多くをご自身で手掛けられたということですが苦労された点はありますか?
苦労っていうのはそんなになかったんですけど、一番は時間的な制約があったので、そこがネックになっていて、じゃあもう一人で完結したほうがいいだろう、と思っていました。
このアルバムの制作に入る直前までSCHAFTというユニットのプロジェクトもやってたんで、短期で作らなくてはいけなくて、だったら最初から一人でやろう、と思っていましたね。
そもそも上田さんが楽器を始められたきっかけは何だったのでしょう?
楽器を始めたきっかけはもちろんバンドに憧れて始めんたんですけど、周りに教えてくれる人がいなくて。最初はギターを買ったんですが磨いたりするのを楽しむというような感じでした。それから友達とバンドをやることになってベースが必要だ、ということになりじゃあ自分がやろうか、ということで教えてもらいながらベースを弾き始めたんです。
エレクトリックなサウンドとの出会い
そうした経緯でシンセとか電子楽器を取り入れるようになったのでしょうか?
電子楽器に関してはですね、時代の影響もあったと思います。もともと小学生ぐらいのときにYMOが流行っていたりとか。そういったテクノだったり、ポストパンク、あとニューウエーブと呼ばれていたジャンルとか。割とシンセが鳴っている音楽があった時代に青春時代を過ごしていたので、もともとそういう音が好きというか、そういうのはありましたね。バンドに電子楽器を取り入れるようになるのはもう少し時間がかかったんですが、好きでしたね、そういう音楽はずっと。
アルバムを聞くとべーシストという立場からシンセサウンドを構築されているような印象も持ちました。楽曲のベースラインを考えなければならないベーシストにとってシンセはある意味、上田さんのサウンドクリエイションに強い味方になると思われますか? 割と低いシンセベースも鳴っているのでベーシスト、という観点からシンセベースを入れたりされますか?
そこは実はあまり意識していませんね。楽曲を作るときにベースから曲を作る、ということも無いので頭に浮かんだメロディーを練っていってコードをつけたりして、どういう展開にしていくかなと、という段階でシンセが必要だったらシンセを入れる時もあります。もちろん最初にシンセベースのフレーズから曲のアイデアが出るときもありますし。そこはまちまちですね。ただ自分がベーシストだからかもしれませんが、シンセベースの音は好きですね。特に自分のベースは歪ませているベースなんですけど、そういう意味では歪んでいるようなシンセベースは好きですね。なんかこう、圧を感じるというか、圧倒的な感じでパンチが効いている感じがありますよね。
実際にはベースを弾くことが多いのか、それともシンセでベースを弾かれることが多いのか、どちらなのでしょう?
そこも全然別に考えていますね。ベースで弾いたものをシンセベースに置き換えようっていう発想は殆どないですね。基本的にアイデアの状態、つまり頭の中でなっている時点でどちらかハッキリしてます。これはキックにも同じことが言えるんですが、あまり低いパートを詰め込みすぎると低域が飽和状態というか、位相の問題が出てきてしまうので、そこをどううまく処理してくいくか、そういう技術的なところは考えたりします。
ベースとシンセベースと同じフレーズをユニゾンで弾くと周波数帯の問題が出てくるので、ローカットをどちらかに入れたり、フレーズをちょっと変えたり、そういう技術的な処理は意識したりしますね。そうしないと混沌とし過ぎてしまうので。レコーディングに関していえば打ち込みのキックが入っているのでそこにリズムはピッタリと合わせる。そこはマストになってますね。
M08の“M Species #5ver”のベースは手弾きですか?
そうですね、ピック使ってますけど実際に弾いています。もともと僕は歪んでいるベースがデフォルトなんですけど、さらにレイヤーを重ねるというか、歪みを足していったりするんです。アンプはかなり歪んでいるセッティングですね。
機材の進歩と音楽の密接な関係
90年代以降、シーケンサーやDTM機材は著しく進化しています。上田さんは当時からも第一線で活躍されていたと思うのですが、これら機材の進化にどういった印象をもってらっしゃいますか?
それはもう、本当に音楽が変わっていくっていう感じですね。機材の進歩と音楽は非常に密接に関係していると思います。そこで新しい何かが生まれることによって景色が全然変わってくるんですよ。単純に言うとサンプラーが出る前と後では全然違うわけですし。シンセにしても、もともとはアナログシンセだったのが、それが和音で、ポリで出力できるようになるとまた世界が変わりますし。音楽と、特に電子楽器の進歩というのは過去20 – 30年ぐらいは凄い変化があったし、恐らくこれからもそういう変化は続くだろうな、と思っています。自分が思ってもいないようなものが生まれてくるチャンスというか、可能性はいっぱいあるだろうな、と思います。
もともと自分は一番最初に曲を作ったときからリズムマシーンを使って、自分で楽器弾いて、カセットタイプの4トラックのMTRでピンポンしながら曲を作っていくっていうタイプだったんです。最初から一人で曲を作るタイプだったんですよね。だからバンドで皆で“せーの”って曲を作るっていうことがほぼ無くて。そういう意味ではドラムマシーンが最初の僕にとっての電子楽器になるのかな、と思います。
そうするとサンプラーやシンセも入れていくっていうのは当初から考えられていたんですか?
そうです、生楽器の演奏のなかにもドンドンそういう音を入れていこうって思ってましたね。
単純にシンセも普通に入れてもいいし、歪ませてみたりとか、それをサンプラーにいれてみたりとか、ドラムマシーンとかもサンプラーに入れたり。そういう音でノイズッぽいものを作ってサンプラーで鳴らしてみて、それでプレイバックすると曲のアイデアが浮かんだりとか、実際にそういうことは多いんですよ。一番最初はS1000とかから始まってるんですが、今と比べると容量もそんなになかったんですが、やっぱり当時はちょっと革命的だったなと思います。ループできるとか、聞いた事ない音が作れるとか。
今回のアルバムでAddictive Drumsは使われていますか?
基本的にはドラムはAddictive Drumsです。メインはAddictiveで、Battelfiledで人間が叩いているところ以外は全部自分が打ち込みでAddicitiveで作っています。
そうすると7曲目と11曲目以外は全部Addictiveなんですね?
その2曲もトリガーでAddicitive Drumsの音源を混ぜたりして使ってますね。あのリプレイサーですね、あれ使ってます。すごくいいみたいですよ、あれ。僕自身が使っているわけではないんですが、草間さんが使っていて、絶賛してました。普通だったら一日作業なのがあれ使うと凄い楽に正確に出来たって言ってましたね。そういう意味ではそこも凄い技術の進歩だな、と思いますね。ソフトが進化することによって作業が変わってきたっていう。
違うアイデアも出てくるし、自分の音楽はそういったところと凄い影響しあってますね。
Addictive Drumsに出会ってからはもうこれでドラム音源はOK
以前お伺いしたときはAddictive Drumsを使ってらっしゃってあの独特なコンプ感がハードなサウンドにとてもマッチする、と仰っていましたが…..そういったところが上田さんの音楽とマッチしていると感じられますか?
ある時、どこかの楽器屋さんでポン、ポンって音だしてみたら出音が凄い好きだったんで。このドラムソフト、なんだろう、いい音してるな、と思ってすぐに購入して使い始めましたね。まずは出音が好きか嫌いかですよね。単純に自分の好みに合うかどうか。Addictiveはコンピューターへの負担も少ないし動作も軽いし、作業しやすいし、今のところいいところづくめですね。
ハードなサウンドにも負けないですか?
そうですね、全然負けないですね。自分のサウンドに合うんですよね。それこそ他の人のプロデュースものとか楽曲に提供するときもAddictiveを多く使いますね。もうAddictiveに出会ってからはドラム音源はこれでいいや、っていう感じです。後は自分が今までサンプリングした貯め込んでいるライブラリーにプラスアルファーするような感じでも使います。
マニュアルに縛られない使い方をしていきたい
マニュアル的な使い方があるけれども、マニュアルに載ってない使い方となると使う人の頭の中にどんなサウンドが鳴っているかにもよるのではないかと思うんです。いろんな使い方が出てきて、それが発展していって音楽もいろんな面白いものが出てくる可能性があるんじゃないかなと思うのですが。
音楽の進歩ってそこだと思うんですよ。例えばサンプラーを考えた人が、今のサンプラーを使っている音楽を始めから想像して作ってないと思うんですよ。もっと数学的に考えたと思うんです。でも使う側はそんな事関係なく使っているし。で、いろんなアイデアをぶつけるとまた数学的に考える人がそれをどんどん発展させて作ってくれる、ということが起きると思うんですよ。だから僕らアーティスト側は無茶ぶりをどんどんしようかな、と思ってますね(笑)。マニュアルを壊していこうって感じですね(笑)。
本日はどうも有難うございました。今後のご活躍にますます期待しています。
上田剛士 (AA=) プロフィール
世界に名を轟かせたモンスターバンド“THE MAD CAPSULE MARKETS”の司令塔、上田剛士のソロプロジェクト。常に進化したサウンドで独自の音を作り続けるイノベーター。 2008年に“AA=”を始動。アーティスト名はジョージ・オーウェルの小説「動物農場」に登場する言葉“All Animals Are Equal”に由来。BABYMETAL、BiSなど他アーティストの楽曲制作やプロデュース、アレンジ、椎名林檎を始めとする様々なアーティストのリミックスワークから映画やゲーム、CM音楽制作までその活動は多岐にわたる。2016年5月18日には、シーンに衝撃を与えたコラボレーション楽曲3作を収録したAA=通算5作目となるアルバム「#5」をリリース。