C-37aは1950年代に発売されたチューブマイクで、漫才マイクと言われるC-38の前身ともいわれる歴史の古いマイクロフォン。日本製でありながら、海外のスタジオでよく使われ、評価されている。このマイクをエンジニアJoe Chiccarelliが監修し、現代の音楽にもマッチするようアップデートされたTonelux JC-37を現役エンジニアに試用してもらい、そのサウンドや用途などのインプレッションを伺った。第一回目は石井竜也、K、ORANGERANGEなどを手掛けている永井はじめ氏。
普段のレコーディングに使用しているマイクと共に、JC-37を使用してドラム、アコースティックギターをレコーディングした感想を伺った。
普段、アコースティックギターをレコーディングする場合に使用するマイクはどんなものを使用されていますか?
アコースティックギターをレコーディングするときは、一本のマイクでレコーディングすることが多く、AKG C12が80%、NeumannのM49が20%くらいの割合で使用しています。
なぜそのマイクを選んでいるのでしょう?どんな状況で使い分けていますか?
この二つのマイクは、楽器全体を捉えやすいんですよね。それぞれの持つ個性が違うので使い分けています。
ナチュラルでマイルドで響きをふくよかに録りたいときと、ドラムとかオケがある中でガッツがある感じで録りたいときとに使い分けています。これらのマイクとアコギを録る時はTLEFUNKENのV76というプリアンプを使っているのでプリアンプとの相性も含めて選択していく感じですね。この時、コンプやEQはかけないのでマイクとプリアンプが持つ要素は大きいと感じています。
今回、アコギを録って頂きましたが、普段どのようなセッティングをされていますか?
距離としては時と場合によるんですけど、最低でも30cm以上は離しています。ホールトーンは狙っていなくて、楽器全体の鳴りを意識しています。イメージとして、ネックとボディの接続部分辺りを目指しながら、低音が多すぎればネック寄りに角度を変えるなどしています。ギタリストによっては変わることもありますけど、だいたいこのセッティングが多いですね。
何故、ギターの距離が遠いかというと、歌とギターを同じマイクで録ることが多いんです。その時に何をしたいのかというと、歌が一番前で一歩引いたところにアコギがあるような距離感にしたいんです。
そのためにリバーブなどで距離感を作るということをしたくないので、ギターの距離を若干離すというのはそういう部分もあります。ギタリスト自身が聞いている距離も同じくらいだと思っているんですよね。プレーしている人の状態を再現したいと思ってセッティングしています。
TONELUX JC37を使用してみたフィーリング
外観から聴かせてもらえますか?
小さくてセッティングしやすいですね。普段は大きいマイクを使うことが多いので、小ぶりなマイクはセッティングに自由度が増す気がします。大きさでマイクを選ぶことはないですけど、小さいのはいいですね。
サウンド面ではどうでしょう?
物凄くナチュラルですね。マイクって、派手になることが多い印象なんですが、その場で聴いている音に限りなく近い気がします。
今回はアコースティックギターのGIBSON J-45を録ったのですが、過不足なくギターの持っている低域から高域まで自然に拾ってくれています。低域が膨らむこともないし、高域が出すぎることもなく、ギターの音がそのままという感じがします。演出されすぎていない感じで、ミックスするときに処理しやすいでしょうね。
サウンドデモ
ドラムに使ったときは、どのあたりにセッティングされましたか?
ドラムの真正面ですね。キックとタムのちょうど中間くらいですね。距離的には50cm~60cmの間くらいだったと思います。ビート感を失わないためには音像がボケない距離にしておく必要があると思っています。
キックとスネアをオンで録っておきたいので、キックとスネアの輪郭を作った上で、ドラムを聴くときと同じ距離感にしています。これもギターの時と同じで全体的な距離感とも言えますよね。
それを数字にするとだいたい50cm~1mの間になると思います。高さについては高くするとシンバルの音がうるさくなってしまうので、ちょっと下げ目にしてタムとキックの間くらいにセッティングするとキット全体の皮物が良い感じになっているように聞こえるのでそれくらいにしています。
JC37の音はどんな印象でしたか?
普通に良い音だなって思いました。もっとスカスカな音をイメージしていたんですけど、立ってその場所で聴いているくらいリアリティがある感じでした。あとは、音像が思ったより近いとは感じました。焦点が合っているというか….ピンポイントに楽器が録れている感じでした。
プレースメントとしては、部屋鳴りを録るような位置だったんですけど、ドラムセットの音が明確に録れていましたね。この位置で使う他のマイクだともっと部屋鳴りの方が大きく録れて、“このスタジオってこういう音だよね”っていうのが分かる感じなんですけど、このマイクの場合は、“ドラムセットはこのキットだよね”っていうのが分かる感じでした。
この日はYAMAHAのビンテージのドラムを使っていたのですが、それがちゃんとわかるような音で録れていました。これが他のセットであれば、その特徴がよく録れるのでしょう。きっと、楽器の特徴を録りやすいんでしょうね。
マイクの音がどうっていうよりも、どの楽器を弾いているのかっていうのが分かりやすく録れている気がしますね。さっき録ったアコギにしてもJ-45だったり、J-200とかハミングバードに持ち替えたら楽器が変わったのがよく分かりますね。
TONELUX JC37はどんな用途、サウンドで使うとハマりそうですか?
僕は比較的に生バンドのレコーディングが多いので、ど派手なものではなくてナチュラルな方向性なものが良いでしょうね。ナチュラルなものであれば、アコギはもちろん良かったですし、先日ドラムを録ってみてもナチュラルで良かったですし….ちょっと試してみたいのはステレオでピアノを録ってみたいですね。それと、複数本で管とか弦とか録ってみたいかな…弦だと本数がたくさん必要になると思いますけど。録った音に痛いところがそんなに無いので、バイオリンとかが良い感じでとれるのではないかなと思っています。トランペットも痛い音が出ることもあるんですが、それもだいぶ抑えられるのではないかと想像しています。ハイのスピードが速すぎるマイクだと痛い部分がピーキーなるのですが、このマイクはそういうところがないので、収まっているという言い方もできますが、ナチュラルなフィーリングで録れるのではないかと思っています。
音楽ジャンルでいうとどんな音に合いそうですか?
カントリーとかフォークとか…フォークは合うかもなぁ…。アコースティック楽器などのナチュラルな響きが大切な音楽に合うと思います。かといって、ロックとかでも全然使えますし、さっき録ったアコギのようにあとでEQをすればどんなジャンルでもいける気がしますね。ジャンルを限定する必要は全然なくJC37自体がナチュラルな音なのでオールマイティに使えるのではないかなと思っています。
性能的に足りないと感じるところとかはありましたか?
難しいなぁ….他にもそれぞれに個性をもったマイクが存在しているので、JC37を使用するとして思いつく用途でって考えるとマイクとして“足りていない”ものを感じないですね。
もしこれしか使えないということが前提として考えるのであれば、 もうちょっとトランジェントというかスピードが速ければタッチが見えやすくなるんだけど、そうするとこのマイクの良さであるナチュラルさが失われていくので、それは演出の部分になってしまうのでこのマイクはこのマイクの個性のままでいいかなと思います。
オリジナルであるSony C-37に対して持っていたサウンドのイメージってありますか?
使ったことありますけど….25年くらい前だったので印象をあんまりよく覚えてないんですよ。正直言ってこんなに良いマイクだった記憶がないんですよね、その時のマイクの状態も含めて(笑)。
なんか、もっとスカスカだった記憶があるんですよね。それもふわっとした記憶なので、それをどうだったとは言えないですね。良い状態のC-37aに出会った経験がほとんどないので、何とも評価をしにくいですね。日本でも古いレコーディングスタジオにはあった気がするんですけど、あやふやな記憶の中で比べるのは難しいですよね。
タイミングが合えば比較してみたいですね。
マイクを購入するときに持つキーワードとかイメージっていうのはあるんですか?
無いですね。今回は試させてもらいましたけど、試させてもらったマイクについては全部覚えているので、その年とかタイミングで多そうな仕事のジャンルに使えそうなマイクを買い足すことはありますね。去年あたりからフォークソングを録ることが多いのでリボンマイクを買い足したりはしていますね。それは自分にとってメインで使用するマイクを持っているところがあって、足りないから何かを追いかけて買うという感じではなくて、メインで使うマイク以外に必要なものが出てきたら買うというようなスタンスでいます。そういいながらここ数年でマイクは20本以上買ってはいるので、ちょこちょこ買ってはいる方ですね。今回試してみて、いい感触だったことも忘れませんよ。
JC37が手元にあって自由に使えたらどんなサウンドを録りたいっていうイメージは湧きますか?
許されるならこのマイクをナッシュビルに持っていてJC37だけでバンドで一発録りしてみたいですね。
JC37を使われてみて総評を頂けますか?
楽器をナチュラルに良い音で録れるマイクだと思います。“これがキング・オブ・マイクです”と言えるような強烈な個性は持っていないですけど、このマイクだけでレコーディングしても成立させられると思っています。このマイクだけで全部できると思っていますよ。何の楽器にでもハマると思います。
玄人受けするマイクっていうことでしょうか?
プロユースも当然ですが、アマチュアの人で限られた予算の中で一本だけでも良いマイクが欲しいと考えたときにこのマイクを薦めたいですね。プロのように用途によって何本も揃えるっていうのは現実的ではないですから、どんなものでも録れるクオリティの高いマイクとしてはそんなに高い価格帯ではないので、十分検討する価値はあると思います。
永井はじめ
1989年よりレコーディング・エンジニアとしてのキャリアをスタート。石井竜也、ハンバートハンバート、miwa、ORANGE RANGEほかの諸作でプロデュース、レコーディング、ミックスなどマルチに活躍。電子音楽ユニット“電子海面”のメンバーでもある。