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MOTU 24AoとAVB Switchを用いてJeff Mills“Planets”のオーケストラを再現したマルチチャンネル・サウンドインスタレーション

PHOTO BY JIROKEN

サウンド・インスタレーション構築術

2017年11月30日〜12月1日にかけて、Jeff Millsがオーケストラと共演したアルバム“Planets”を音源にしたマルチチャンネルでのサウンドインスタレーション”JEFF MILLS presents PLANETS the Celestial Body Installation”を行いました。

これは渋谷ヒカリエホールで行われたTokyo Dance Music Event内のプログラムの一つで、使用するスピーカーは58本 / DAWのトラックは54chに及ぶ大規模なものです。このインスタレーションでは、Taguchi製スピーカーを実際のオーケストラの楽器の位置に置き、1つの楽器につき1つのスピーカーを鳴らします。観衆はこのスピーカー群の中を歩くことができ、本物のオーケストラの中でどんな音が鳴っているか擬似的に体感できるという仕組みです。

 

 

このインスタレーションではアウトプットのチャンネル数が多いため、オーディオインターフェイスの選定が重要になってきます。そこでチョイスしたオーディオインターフェイスがMOTU 24Ao。この24Aoはアナログアウトを24ch / ADATのイン・アウトを3系統 / 内蔵DSPミキサーまで備えています。これだけの豊富な機能を備えているオーディオインターフェイスとしてはかなり低コストだと思います。

今回は54chのアウトプットを確保するため、24Aoを3台使用しました。

 

 

また、最近のMOTUの特徴として、ネットワークオーディオの規格であるAVBに対応していることが挙げられます。これはIEEE802.1で策定されたAudio Video Bridgingの略称で、LANケーブル1本で音声と映像を一緒に送ることができます。登場は2011年とまだ新しく、音楽用途だけでなくカーナビ等の分野でも注目されている規格です。

今回はMacbook Proから64chのオーディオデータを流し、それを3台の24Aoで分配するのにAVBを使用します。この場合、各インターフェイス間でのクロックの同期やデータストリームの受け渡しを行い、そのネットワークのハブとしてMOTU AVB Switchも使用します。なお3台以上のAVB機器を使う場合は、市販のいわゆるイーサネットハブは使用できず、AVB対応のスイッチが必要になります(MOTUでは複数台のAVB機器をご使用になる場合はAVB Switchのご使用をオススメしています)。

これだけのチャンネル数を扱うには、求められる仕様も音楽制作用というよりは設備用のものになってきます。MOTUのオーディオインターフェイスといえば音楽制作用に特化したものが多い印象でしたが、この24AoはアナログアウトのコネクタがD-Sub端子とユーロブロック・コネクターというまさに設備用で、コンピュータとはUSB2.0もしくはNetworkポートを経由してAVBで接続します。

 

 

セットアップ

 

 

 

 

 

MOTU 24Aoのアナログ・アウトからパワーアンプまでアナログ経由で音源を送ります。今回は3台の24Aoから8台のパワーアンプにアナログ経由で54chもの音声を送ります。アナログ経由はさぞかし大変そう…と思うかもしれませんが、24AoのD-Sub端子からマルチケーブルで8chずつ送ることができるので、ワイアリング周りは意外とスムーズでした。このパワーアンプからパッシブクロスオーバーネットワークを経由したりして58本ある各スピーカーを鳴らしていきます。

 

今回のインスタレーションのテスト・ドライブは新木場クリエイティブ・ラボで行われました。会場で設営をする前にここで最終的な形に仕上げます。

今回は24Aoの1台目とMacをUSBで接続し、残りの2台は1台目からAVB経由でデータを送る方法にしました。24Ao-1がオーディオインターフェイスで、24Ao-2/3がDAコンバータの役割をしていると考えるとイメージしやすいでしょう。

さて、ハードウェア類を接続したら、次はソフトウェア部分のセットアップを行います。PCに24Aoのドライバー”MOTU Pro Audio Driver”をインストールします。24Aoの様々な設定は、メニューバーにインストールされるAVB Discoveryというアプリを使用して、設定したいデバイスに接続し、webブラウザからネットワーク経由でデバイスの設定を行います。

 

 

24Aoでできる項目は設定は多岐にわたり、クロックの設定・ルーティングなどからアナログアウトプットの音量トリムまで設定可能です。それだけにAVBを初めて使う場合は、マトリクス状のルーティングに慣れが必要かもしれません。
また、AVB Switchがあれば、そのEthernet端子を経由してiPad等からもコントロールが可能です。こうしたインスタレーションの場合は、インターフェイスとコンピュータの距離が離れていることがあるので、ワイヤレスコントロールはとても便利です。

 

24AO設定画面

 

AVB機器間で音声データのやりとりをする場合は、NetworkポートからLANでAVB機器同士を接続します。AVB機器間での通信にはストリームという単位が使われ、1ストリームあたり8chのオーディオ送受信ができます。ルーティングやストリーム数の設定はブラウザ経由で行いますが、下記のスクリーンショットは24Ao-2のAVB周りの設定で、24Ao-1から3ストリーム(24ch分)のオーディオを受ける設定になってます。

 

 

また、複数の機器を使うときに悩まされるクロックは、24Ao-2のクロックソースを24Ao-1のAVBストリームに指定することで同期を取ります。万全を期すためクロック・ジェネレーターも用意していましたが、本番時はこれがなくてもトラブルなく終えられました。

 

 

ここでの設定は、図のようにPCから64chのアウトプットを3台の24Aoに割り当てる設定をしています。PCからは24Ao-1だけが見えていて、USB接続で合計64ch=8ストリームまで送れるようになっています。この64chのうち24Ao-1に24chのアウトプットをアサインし、残りの40chはAVBを経由して24Ao-2と3に割り振ります。

24AO-1のルーティング

 

このスクリーンショットは24Ao-1のルーティング設定です。

ルーティングの画面はマトリクス状になっていて、上がインプット・左がアウトプットになっています。ルーティングの設定方法は、上のインプットチャンネルから下に向かい、左側に割り当てたいアウトプットがある行のチェックボックスをオンにします。

24Ao-1では本体のアナログアウトに24ch割り当て、24Ao-2/3に送るチャンネルはAVBストリームにアサインします。こうすることで機器間のシームレスなルーティングが可能になります。24Ao-3では、AVBストリームのインプット24Ao:4-8からの信号をそれぞれの内蔵アナログアウトにルーティングしています。

 

24AO-2のルーティング

 

24AO-3のルーティング

 

24AoにはDSPミキサーを内蔵しているので、アウトプットのルーティング先をMixerにすると、音量の調整や内蔵EQやダイナミクスのエフェクトをかけることができます。この内蔵ミキサーはWiFi経由でのワイヤレスコントロールにも対応しているので、タブレットを持ち歩いて様々な場所でモニターしながら調節が可能です。

 

 

この内蔵ミキサーは主に内部でミックスする用途に設計されていますが、エフェクトだけ使ってトラックごとにパラアウトすることも可能です。Routingの画面右端にMix Post FXという項目からルーティングします。この機能は、今回のプロジェクトの仕込み中では時間に追われて気づきませんでしたが、執筆中に発見しました…。

 

ミキサーのエフェクト部からパラアウトするルーティング

 

 

本番

 

 

いよいよヒカリエホールでの本番です。設営も無事トラブルなく終わりました。本番ではコンピュータを裏に隠したので、再生を開始するときはiPadアプリのConductrを使用して再生しています。こうしたインスタレーションではワイヤレスで操作できる環境が必須になってくるのでタブレットが大活躍します。24AoのミキサーをWiFi経由で操作することで、音響のチューニングも格段にやりやすくなるでしょう。

 


インスタレーション全景|PHOTO BY JIROKEN

 


手前は木管楽器を鳴らすスピーカー=FLAT BOARDシリーズ|PHOTO BY JIROKEN

 


無指向性のスピーカー=REX。主にストリングスに使用した|PHOTO BY JIROKEN

 


奥に見えるのはブラスセクションに使用したMICRO ARRAY|PHOTO BY JIROKEN

 


指揮台に立って指揮者の気分にもなれる|PHOTO BY JIROKEN

 

 

本番を終えて

MOTUの音声出力に特化したインターフェイス24Aoを使用してみて、こうしたオーディオI/Fは大規模スタジオなどだけでなく、マルチチャンネルのインスタレーションにも十分使えるものでした。気になる音質は色付けが少なく透明感がある印象で、観客に感想を聞くとTaguchiのスピーカーと相まってとても気持ち良い音だったと高評価。安定性もUSB接続であれば全く問題なく、多チャンネル再生でもノートラブルでした。

 


JEFF MILLS presents PLANETS the Celestial Body Installation

 

MOTU一押しのAVB規格は、複数台のインターフェイスがあってもクロックの同期やオーディオの受け渡しが行え、ケーブルも100mまで取り回しができるので、インスタレーションだけでなく様々な設備に合わせて使用できるでしょう。筆者もこうした設備用のものは初めて触れましたが、使い勝手はMOTUのオーディオインターフェイスと同じなので戸惑うことなく導入できます。

 

プログラム概要

Music : Jeff Mills & Orquestra Sinfónica do Porto Casa da Música | ジェフ・ミルズ&ポルト・カサダムジカ交響楽団

 

 

 

 

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