彼の新作XO拡張パック『Root Access』を制作するにあたり、彼のキャリア、制作哲学、そして制作中に驚いたことなどについて話を聞きました。
Mitch Murderプロジェクトの始まりは?
2008年頃に “Mitch Murder” 名義でトラックを投稿し始め、主にMyspaceや電子音楽フォーラムで活動していました。当初はいろいろなジャンルを試していましたが、80年代風の音楽が特に好評で、それが人気を得るきっかけになりました。
それ以前からコンピュータで約15年ほど音楽を作っていましたが、どの別名義でもこれほど注目されたことはなく、Mitch Murderプロジェクトとして リリース単位で作品を出すことが自然な流れになりました。以来、休止することなく活動を続けています。
どうして長年クリエイティブでいられるの?
私が創造性を保ち続けられる理由は、「常に同じタイプの音楽だけを作らない」ことです。
リスナーはアーティストに一貫性を求めがちですが、私はシンセウェーブから303を使ったブレイクビーツ、シティポップ、ドラムンベースまで幅広く制作してきたため、何が出てくるかわからないワクワク感こそが自分を刺激し続けています。
また映画や他ジャンルからのインスピレーションは大きいですが、インスピレーションだけで曲が完成するわけではなく、日々コツコツと制作することが重要です。
なぜ匿名性を保っているの?
Mitch Murderの匿名性は、音楽そのものを最大限に前面に出すために選んだスタンスです。
実際、80年代の“ウォール街サラリーマン風”のアバターは退屈そうに見える意図的なもので、長年それを気に入って使い続けています。
近年は顔出しへの抵抗が薄れてきましたが、それでも匿名であることを好むリスナーが多いと思います。
多様なジャンルをどう取り入れているの?
私の音楽にはシンセウェーブ、シティポップ、フュージョン、ファンク、90〜00年代のエレクトロまでさまざまな影響が混ざっていますが、これは幅広い音楽を常に聴いていることの自然な結果です。
どんなジャンルを扱うときでも、その影響が必ずどこかに残りますし、意図的に回避しようとしても結局その音楽性に引き戻されることがあります。
制作プロセスはどんな感じ?
新しいアイデアを形にする際は、完成図をざっくりイメージしつつも、実際の制作は「パズルを解くようなプロセス」です。
音楽理論や形式的な訓練を受けていないため、頭にあるコード進行をいつもすぐに演奏で実現できるわけではないけれど、そこに挑戦すること自体が楽しいんです。
ドラムをどう処理している?
制作では、キックやスネアなどのドラムは個別トラックで処理します。
複数のキックやスネアを重ねる場合は、キック用バスとスネア用バスそれぞれで処理して、すべてを丁寧に分離し、コンプレッサー・EQ・パンニングを個別に施すことを重視しています。
いわゆる「ドラムバスにひとつのコンプをかける」という手法はあまり使いません。
ハードウェア vs ソフトウェア?
これまで制作に使ってきたのは100%ソフトウェアです。
ハードウェア機材も触ったことはあるけれど、実際に何かを作る際には遅くて扱いにくい。結局ほとんどが使わずに埃をかぶる結果になりました。
これは私のバックグラウンドである “デモシーン/トラッカー” 時代にサンプル機能中心の制作だったこととも関係があります。
『Root Access』を作ってみて驚いたことは?
XO拡張パックを作る過程で一番驚いたのは、XOの自由度の高さでした。
それまで私は主にドラムのサンプル検索ツールとしてXOを使っていたのですが、シーケンサー部分に触れてみたことで、新たな楽しさと可能性を発見しました。
また、 XOの内蔵エフェクトなどの制約だけで作業したことが、逆に創造性を刺激する良いリマインダーになりました。
『Root Access』の制作アプローチは?
最初は「80年代サウンド中心」でまとめるつもりだったものの、途中からドラムンベース、90年代ハウス、エレクトロなども取り入れることになり、結果として最初に思っていたよりもバラエティ豊かなスタイルになりました。
これは私自身がこれまでさまざまなジャンルに挑戦してきたバックグラウンドとも一致しています。
今後の展望
現在は新しいドラムンベースEPを制作中で、来年には「Selection」シリーズ第7弾アルバムのリリースを計画中です。
そのアルバムは「純粋な80年代/シンセサウンド」にフォーカスした作品になる予定です。
さらにコラボレーションやゲーム音楽関連のプロジェクトも視野に入れています。










