今回は須藤さんに普段使用されているDPの活用法から、DPならではの利点について貴重なお話を伺いました。当ページにてユーザー各位と共有いたします。
Q . 須藤さんが代表を務めるマイクロサウンドの普段の業務内容を教えていただけますか?
A . 弊社スタジオでの生楽器の収録、録音編集や CDマスタリング、各種ナレーション録りと編集、CMや製品用の内蔵音声、防災無線等の構内放送用音源の録音編集を行っています。 近年はライブ配信音声のリアルタイム処理に依るライブMAも行っています。 コロナ禍の影響で社会一般的に「ライブ配信」が大幅に増えましたが音楽のライブを筆頭に音質が特に問われるものが多く、要求される項目も多岐に渡りその中で迅速な対応が求められます。 限られた設備内でのハードウェアミキサー運用では限界があり対応策としてオーディオ入出力部分を分け、オーディオ処理を行うミキシングエンジン部分をソフトウェア化する事で柔軟に対応可能としています。
Q . 須藤さんのお仕事のなかでDPは普段、どのように活用いただいているのでしょう?
A . 自社内での録音編集作業、外部現場でのライブ配信音声処理等に DPを活用しています。
Q . DPはいつ頃よりご使用になられていたのでしょう?
A . DPの前進「Performer」の頃から MIDIシーケンサーとして劇伴等の制作を行っていましたが 他社の MIDIシーケンサーが MIDIデータだけでは無く音声自体の Audioデータも統合して扱える様になり、Performerも Digital Performer(DP)としてリリースされたのを機会に全面的に DPの使用に切り換えました。
Q . 最近の業務では、DPのどのようなポイントが活躍していますか?
A . ライブ配信音声ではリアルタイム処理の正確さや安定性、柔軟性で DPが活躍しています。 またオーディオプラグイン型式も各種に対応しており必要なオーディオプラグインを簡単に使える事も良い点です。
Q . 他のDAWではなく、DPならではの利点はどこにあると思われますか?
A . DPは当初から独自のオーディオエンジン MAS(MOTU Audio System)がサンプルアキュレートでオーディオ処理を司っており各種のオーディオプラグイン型式「MOTU社独自の MAS、macOS標準の AU(Audio Units)、Steinberg社の VST(Virtual Studio Technology)」のすべてに対応しつつ MASにまとめる事でピントの合った音質になっています。 これは録音再生を DP単独で行うと顕著に現れます。 他の DAWに較べると特徴のあるサウンドと言われるかも知れませんがこれは低歪みでピントの合った音でシャープな音像に依りその様に感じる事からだと思います。 他の DAWでは若干ディストーションが掛かったピントが甘い太めの音像に感じます。 DPでは録音やミックス(ライブMAを含む)での安定性や整音結果の予想が立てやすいのも魅力です。
Q . 特に活躍しているDPの機能や、内蔵プラグインなどの利点をおしらせいただけますか?
A . 意外に活躍しているのは「MasterWorks Limiter(以下 MW Limiter)」です。 リミッターの多段掛けが効果的で意図した音量に畳み込めるのですが各チャンネルに一段目として MW Limiterを使いレベルを適切に揃えてから別のエフェクトや最終段のリミッターに送ります。 DPは当初から MASによりオーディオプラグイン間の処理時間差の調整が自動で正確に行われていた事も重要です。
Q . ライブMAのお仕事の特徴や、PAやMAとの違いについて教えていただけますか?
A . PAはライブ会場でお客様の耳に直接届く音で会場内の様々な音響要素を含みその会場で聞いた時に最も良い音質になる様に調整されています。 会場の規模にも依りますが、音量が大きい生楽器は直接音を聞くように設定されていたり会場内の歓声やどよめき、それらに伴う反響音は PAには含まれません。 マイクロフォンで収音されない音も有るので PAからの音をそのまま配信等に流しても物足りないものになります。
Q . 現場にも依るかと思いますが、ライブMAの現場ではどのような機材で運用されるのでしょうか?
A . 機材は時に現地設備機器の使用を指定されない限りは自前の機材を持参します。 レンタル機器は実際に該当機器に触れるまでコンディションや初期設定が不明な事もあるので極力使いません。 PAからライン音声(俗に言う 2MIX)を受け取る際に必ずバッファとして DI(ダイレクトボックス)を持参、使用します。 これは双方に雑音等を発生させない為のものでユニティーレベルのマッチングも行います。 DIからオーディオミキサー或いはオーディオインターフェイスに PAからの音声を受け取ると共に別途自前のアンビエンス音収音用 MSステレオショットガンマイクを使います。 PAに含まれない会場内の音をこのマイクロフォンで収音しますが PA音や実際の会場内の雰囲気をより正確に伝える為にステレオイメージや音量バランスを調整してミックスします。
Q . これからライブMAに関わろうとされる方に対して、アドバイスやコメントをいただけませんか?
A .「ライブMA」はやり直しの利かない一発勝負の怖さと成功時の達成感があります。 依り良い結果を求める余り保守的になって各種操作が決め打ちになってしまうと魅力も半減してしまいます。 またリスクを伴う事項を多用するのも避けなければなりません。 相反するこれらのバランス感覚が求められます。 またリアルタイムに発生する問題に随時対応しなければなりませんがその問題に如何に早く気付くか?さらに問題自体を発生させない事が重要です。 挙動が見通せて結果のイメージを組みやすい道具を使う事が重要になります。
この度はご協力いただき、また貴重なご見解をありがとうございました。今後ともDPをご愛顧ください。
須藤 高宏 (Sutoh Takahiro)
マイクロサウンド代表
1961年埼玉県生まれ。
1990年から東京都国分寺市にて録音スタジオ「マイクロサウンド」を運営、各種録音編集制作、音響業務に携わる。
交通施設(鉄道、高速道路)、公共施設(治水、ホール)用放送音源録音、販売用CD音源制作、各種劇伴の制作等。
またコンピュータミュージックや音響、収音に関する書籍、記事の執筆も行っている。
配信収録音声にも関わり、ソフトバンク「光の道」対談、向谷倶楽部、NO NUKES 2012、NO NUKES 2013、FREE DOMMUNE ZERO、skmts Project、各種イベント配信収録音声を担当。
スタジオ開業前は大手コンピュータメーカー関連会社にてマイクロコンピュータ開発支援装置、マスクROM受注システムの開発業務に携わる。
一般社団法人 日本音響家協会 正会員