プロデューサーは鳥山雄司氏。今回は鳥山氏にこのアルバム制作について話しを伺った。アルバムの話しのみならず、二胡のこと、スタジオのこと、機材のことなどいろいろ興味深い話しが聞ける。
* このインタビューは2014年に収録されたものです。
WeiWei Wuuプロフィール
中国/上海生まれ。本名 巫 謝慧。5歳からヴァイオリンをはじめる。上海音楽学院を経て、上海戯曲学校で二胡とヴァイオリンを専攻、双方を首席で卒業。その後1991年に来日。二胡を通じてさまざまなジャンルのミュージシャンとコラボレーションを精力的に行う。その過程で自ら、従来座って演奏する二胡のスタンディング奏法の考案など、独自の演奏スタイルを確立。ロック、ジャズ、フュージョンとの共演を可能にした、現代二胡のパイオニア的存在。
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鳥山雄司プロフィール
ギタリスト、音楽プロデューサー。1981年慶応大学在学中にセルフプロデュースによるソロ・デビューアルバムを発表。その後1996年にスタートしたTBS系ドキュメンタリー番組「世界遺産」にテーマ曲「The Song of Life」を提供、大ヒットオムニバスアルバム「image」にも収録され、自身の代表曲となる。他にもフジテレビ系「フジサンケイクラシック」ゴルフ中継テーマ曲「Let me go」をはじめとする数多くの名曲をリリース。現在までにソロアルバムを15枚、また、学生時代からの朋友 神保彰(ds)、和泉宏隆(key)とのユニット「PYRAMID」によるアルバムを3枚発表している。アレンジャー、プロデューサーとしても松田聖子、吉田拓郎、葉加瀬太郎、CHARA、宮本笑里を始め、クラシック界の宮本文昭、ジャズ界の伊東たけし、タンゴの小松亮太等、幅広いジャンルのアーティストを数多く手掛ける一方で、アニメーション「ストリートファイターII MOVIE」「鋼鉄三国志」、ゲーム「幻想水滸伝V」、映画「神様のパズル」「クヌート」等のサウンドトラックも担当。J-WAVE「DOCOMO BODY AND SOUL」ではナビゲーターも務め、精力的にその活動の幅を広げている。
今でこそミュージシャンやアレンジャーが自宅にスタジオ環境を整え、作業のほとんどを自宅でこなしてしまうのが当たり前の時代になりました。鳥山さんはかなり以前からこの自宅スタジオを開設してらっしゃって、いわば自宅スタジオの先駆者的な存在だと思います。この自宅スタジオを建てようと思われたきっかけは何だったのでしょう?
遡ると今から27、8年前くらいですかね、80年代によく仕事でニューヨークに行ってたんですが、向こうのミュージシャンの自宅の作業のクオリティの高さにびっくりしたんですよね。自宅のスペースにシンセや音源がずらり並んでいて、ミキサーもある。リン9000や当時のアップル・マッキントッシュ・クラシックなんかがシーケンサーとして使われていて、再生ボタン一つ押せばそれこそ完パケ状態に近い曲がバーッと鳴るんですよ。
それに向こうでは自宅で仕込んだものがほぼそのまま本番のオケに採用されていて、後は生楽器をスタジオでダビングするだけ。こういう制作手法を日本でも絶対やらねば、と強い衝撃を受けました。まだ日本ではプリプロ=プリプロダクションっていう言葉さえあまり聞かれていなかった時代で、その当時日本ではレコーディング・スタジオでマニュピレーターがシーケンス作業をしていましたね。
で、自分はギタリストなのでギターも自宅で録音したくなりまして。ADATを買い、ギターをそこに録音して他の機材はADATにシンクさせて。そうこうするうちに以前の自宅の作業スペースが限界にきまして(笑)じゃあ引越してどうせなら自宅にスタジオを作っちゃおう、っていう感じになりました。ここでもう16年目です。始めた頃はスタジオ業界ではDASHフォーマットの3348が主流だったけど、まだアナログ24chのテレコや2インチテープも存在していた時代で当然ミキサーもアナログ卓。DAWももちろん無かったですよね。
それ以来このスタジオで数々の作品をプロデュースされてきたわけですけども、今回WeiWei Wuuさんのアルバム “Reborn” をプロデュースすることになったきっかけを教えてください。
2010年に彼女の何曲かをアレンジする仕事をさせていだきまして、アストル・ピアソラの “リベルタンゴ” なんかをとりあげたんです。ここ近年はインストルメンタルのアルバムのリリースが少なくて、インストのアルバムがもっとあってもいいと思ったし、もっと一般的に知って欲しいという思いもありました。
二胡ってすごく特殊な楽器なんです。演奏するのが非常に難しい楽器で、ギターでいうとフレットボードに弦が触らない構造なんですよね。だから本来はピッチもとりづらいのに彼女の演奏はピッチが凄く良いんです。映像が無いとバイオリン弾いているみたいに聴こえるんですよ。つまり上手すぎるんですよね。西洋音楽を二胡で演奏できる。普通バイオリンでも弾くのが難しい曲を二胡でトライする。彼女はそういう超絶な演奏をしてきたタイプなんです。
ではこのアルバムに EastWest 製品が多く使用された経緯を聞かせてください。
超絶な西洋音楽に挑戦してきた彼女なんですが、その音楽性は実はすごく大陸的なんですね。正しい言い方ではないかもしれませんが彼女の音楽を聴くと中国=アジア、アジア圏の人たちが慣れ親しんでいる中華料理を連想するような・・。さっきも触れましたが西洋音楽、従来のポップスのアンサンブルの中で彼女が二胡を弾くと本当にバイオリンを弾いているように聴こえるので、もっと中国風の匂いがあったほうがいいと、プロデューサーとして判断しました。
それに一般の人はたぶん二胡の音色を聴くと太極拳のような大陸的で、たゆたうサウンドをイメージすると思うんです。だからあえて大陸の色を出した、というところもありますね。そこで Eastwest の音源をいろいろ聴き、彼女もそのクオリティにびっくりしたんです。実際に生の楽器を弾いているのと同じなので本人も気に入り、使用するに至ったという経緯です。
鳥山さん自身が EastWest 製品を知るきっかけは何だったのでしょう?
もともと大分前にEastWestはAKAIのサンプラーのCD-ROMに音源を提供していたのでメーカー名は知っていました。当時からオーケストラ物を提供していたんですよね。さすがに当時は音も荒かったですけど(笑)アイデアが良くて面白いメーカーだな、と思っていました。
本格的に導入したのは映画 “クヌート” のサントラの依頼が来たときですね。オーケストラを使わなければならず、しかし予算の制約もあって何かいいものはないかな、と思っていたときにEastWestのシンフォニック・オーケストラをはじめ何点か購入したのがきっかけですね。
それではこのアルバム “Reborn” の曲でどういった音源が使用されたのか具体的に教えてください。
まずM-10 “南風” とM-2 “Butterfly” という曲では二曲ともSilkに収録されている中国琴 / Guzhengのサンプルを使いアーティキュレーションを多用しました。あとはYangqin / 揚琴ですね。この2種類だけで5トラックぐらい使用してます。DAW側でサンプルのピッチをオーディオのトランスポーズで行っている場合もありますね。こういった特殊な楽器のサンプルは本当に重宝します。まず演奏者を探すのが大変で、見つかったとしても、これはトラディショナルなミュージシャンに多い問題なんですが、実は我々みたいな、いわゆるポップスの制作に対応できない人が多いんです。そもそも彼らの譜面も五線譜ではない。彼らが譜面として使用しているフォーマットに書き換えたりするとそれこそ膨大な時間がかかってしまうんです。だからこういう音源があると本当に助かりますね。”南風” はもともとフォーキーな8ビートしたが、親しみやすいメロディーだったので中国の楽器をもっと入れて個性を際立たせたいと判断しました。特にこの曲はEastWest無しでは成り立たないですね。
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M-1の “Reborn” でも何か EastWest 製品を使用されましたか?
M-1 “Reborn”、M-8 “アストゥリアス” の2曲では特にオーケストラ・プラチナ・プラスが活躍しました。実際にこの2曲では生ストリングスも使用したんですが非常に生ストリングスとの相性がいい。実は他メーカーのストリングス音源のサンプルにはもろもろバラつきが多いんです。そうすると実際にオーケストラの人達が後でダビングするとニュアンスが合わせられなくて困るケースが多いんですね。たいていはピッチ感が気持ち悪いらしいんです。でもEastWestのオーケストラ音源を使えばそれが全く無い。僕はティンパニー、バイオリン、コントラバスもよく使いますし特にホルンは良いですね。アーティキュレーションでいろいろできることがある。重宝してます。他には収録されているハープも優秀ですよ。
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M-5 “Sacred Promise” は鳥山さんの曲ですがここでも EastWest 製品が使われていますか?
この曲ではRAのパイプの中からヨーロッパ、アイルランドのホイッスルと、Voice of passion からブルガリア、シリア等のボイス・フレーズをそのまま使用しているところもあります。前にも触れましたがこういう人達を実際に探すのは本当に大変ですね。こういったボイスフレーズの使い方としてはボイスのフレーズに様々なコード進行をあてはめて試行錯誤していきます。そうすると全く違う世界観が出来上がる場合がありますよね。
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葉加瀬太郎さんのアルバム “With One Wish” でも EastWest のオーケストラを使ったんですか?
EastWestのプラチナプラス・オーケストラを多用しました。実はこのアルバムでは生のオーケストラは一切使ってないんですよ。例えばM-3の “シシリアンセレナーデ” ではオーボエ、ハープ、グロッケンシュピールを使いましたし、M-12の “Someone to watch over me” でも実はオーケストラはEastWestなんです。
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鳥山さんの “耳の良さ” は業界でも有名なのですがその鳥山さんが今までEastWest製品を実際に仕事で使用して何か問題は無いですか?
EastWest製品はマルチサンプルなんですが、ある特定のサンプルだけ位相が違うとか、そういうことが全く無いんですね。正直、他メーカーのものだと結構あるんですよ。特にEastWestのオーケストラでいいな、と思うのはちゃんとオーケストラの配置どおりに音像が定位していること。なるほどな、と思いますね。またストリングスで弦のトレモロや、グリスダウンさせた時に音色が全く変わらないのがいいですね。これも他メーカーのものだと変わってしまうものがあります。僕の場合はサラウンドモードで使うことは無くて、いつもクローズとステージのサウンドをうまくミックスしています。そうするとちょうどイイんですよね。さらに最近、ネットでの音楽配信も24Bit96KHzに切り替えようという動きもあるんで、そういう意味でもこのEastWestのオーケストラ・プラチナ・プラスは有望ですよね。