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Dorico、Sibelius、MuseScore等と共に使える高性能な楽譜スキャニング・ソフトウェア:PhotoScore & NotateMe Ultimate(3)練習用のカラオケ制作やアレンジに応用 by 小池太郎(株式会社ミュージッ ク・テック ・ソリューションズ)


 

 

本シリーズの1回目の記事では、楽譜制作のフローにおける楽譜スキャニング・ソフトウェアの位置付けという観点からPhotoScore & NotateMe Ultimate(以下、PhotoScore)の概要を紹介しつつ、その特徴をご紹介しました。

2回目の記事では、ペトルッチ楽譜ライブラリー(ISMLP)から入手したショパンの練習曲Op.25-7(Études, Op.25 (Chopin, Frédéric))の最初のページを事例に、PhotoScoreにおけるPDFファイルのインポートから編集を経てDoricoへのエクスポートに至るまでの作業の基本的な流れをご紹介しました。

3回目となる本記事では、PhotoScoreを始めとした楽譜スキャニング・ソフトウェアがどのようなシーンで活躍するかを考えてみたいと思います。

 

 

1.楽器等練習用のカラオケ・トラックを作ってみる

 

楽譜作成ソフトウェアのプレイバック機能は、元々は主に入力ミスを目だけでなく耳でもチェックする程度のもので、音質や表現力は二の次であったと思います。

しかし、近年はNotePerformerに代表される生演奏に迫る音質と表現力を持つ外部音源も使用可能となり、2016年に発売されたDoricoはDAW並のプレイバック編集機能を搭載するなど、楽譜作成ソフトウェアにおけるプレイバックの可能性は大きく広がりつつあります。

Finaleに楽譜スキャン機能が搭載されていた頃、紙の楽譜をスキャンしてFinaleファイル化し、練習用の伴奏トラックを作成してレッスンに用いていたという話を、多くの音楽講師の方々から聞いていました。

本章では、楽譜スキャニング・ソフトウェアの良くある応用事例として、ヴァイオリン教室で用いるピアノ伴奏のカラオケ・トラックを制作することを想定した作業を、実際にPhotoScoreとDoricoを使って再現してみます。

事例として使用するのは、ペトルッチ楽譜ライブラリー(ISMLP)からダウンロードしたパブリックドメイン楽譜「タイスの瞑想曲(Thaïs (Massenet, Jules), For Violin and Piano )」です。

 

 

 

(1)PhotoScore上の編集作業前に、まずはエクスポート&インポートを試す

 

この曲では、最初のページからピアノ譜に良くある「譜表をまたぐ連桁」が多く用いられています。

PhotoScoreに読み込んだ直後は、これがそのまま表現される場所とされない場所があります。

 

PhotoScore上の「譜表をまたぐ連桁」が表現できるのはSibeliusのみ

 

PhotoScore上でこの表現をそのままインポートできるのはSibeliusだけで、Dorico、Finale、MuseScoreでは間違ったピッチで読み込まれてしまいます。

 

PhotoScore上の「譜表をまたぐ連桁」はDoricoでは間違ったピッチでインポートされる

 

PhotoScoreの実際の使用にあたっては、このようにインポートするソフトウェアによっては期待した表現にならないことがありますので、いきなりPhotoScore上で編集作業に入る前に、まずは対象の楽譜をPhotoScoreに読み込んだ後、何もせずにそのままエクスポートし、それを最終仕上げに用いる楽譜作成ソフトウェアにインポートすることをお勧めします。

それにより、PhotoScoreで何の編集作業をすべきか(あるいはしないべきか)が分かると思います。

この譜例の仕上げをDoricoなどSibelius以外の楽譜作成ソフトウェアで行う場合、このように譜表をまたぐ連桁は、PhotoScore上ではまたぐ前の状態に戻しておいて、楽譜作成ソフトウェア側の機能で連桁を編集するのが効率的です。

 

Sibelius以外にインポートする場合は、PhotoScoreでは「譜表をまたぐ連桁」を元に戻しておく

 

 

(2)必要に応じて、PhotoScore上で声部を整理しておく

 

PhotoScoreは楽譜のインポート時に声部を自動的に判断して分ける仕様になっているようですが、中には期待とは異なる声部に割り当てられてしまうフレーズもあります。

例えば以下の譜例では、本来は声部1で入力すべきフレーズが、小節によって声部2(緑色)で入力されていることが分かります。

これらは放置しておいても良い場合も少なくありませんが、もしDoricoで仕上げる場合は、これはおそらく予めPhotoScoreで修正しておく方が早くて楽です。

PhotoScoreでの修正は、該当する音符を選択して、キーパッドの最下部に並ぶ声部ボタンの「1」をクリックするか、あるいはショートカット(Macの場合はoption+⌘+1)を押すだけです。

 

声部はPhotoScore上で修正した方が楽な場合が多い

 

 

(3)PhotoScore上では敢えて無視すべきエラー

 

PhotoScoreでは連符が正確にインポートできないことが少なからずあるようです。

これはPhotoScore上でも修正可能ですが、あまり上手くいかない場合、そして最終的に楽譜作成ソフトウェアで仕上げる場合、ここでPhotoScoreでの編集方法を改めて学んで試すことに時間を費やすのは、あまり得策ではありません。

こうした場合はPhotoScore上での作業には早めに見切りをつけて中断し、使い慣れた楽譜作成ソフトウェアにインポートした後に修正するのがお勧めです。

こうしたシチュエーションにおいては、前回記事に紹介したBad timing navigatorは不要なこともあるので、閉じておいても良いでしょう。

 

最終的に楽譜作成ソフトウェアで仕上げるならば、全てをPhotoScoreで修正する必要はない

 

このような複雑な部分は、おそらくPhotoScoreでは編集し切れません。これは放置し、後に楽譜作成ソフトウェア上で編集することにします。

 

複雑な箇所は、敢えてPhotoScoreでは放置し、専門の楽譜作成ソフトウェアに任せる

 

PhotoScoreでは、たまに不要な休符が声部3や声部4などに入力されてしまうことがあります。これらは後のトラブルの元になるかも知れませんので、PhotoScore上で削除しておきます。

 

読み込みエラーで入力されてしまった休符は、PhotoScoreで削除しておく

 

特にピアノ譜の場合、どの音符をどちらの手で演奏するかは重要です。これは前述の「譜表をまたぐ連桁」と同様、PhotoScore上で元に戻しておくと良いかと思います。

 

ピアノの場合、フレーズの左右の手ごとの振り分けはPhotoScore上で整理しておくと良い

 

なお、音符の編集におけるコピー&ペーストについてですが、PhotoScoreではSibeliusやDoricoと同様に、コピー元の音符を選択してalt/optionキーを押しながらコピー先をクリックでペーストが可能ですので、この方法を使うのが早くて楽かと思います。

 

(4)楽譜作成ソフトウェアにインポートして仕上げる

 

今回の譜例は、Doricoにインポートして仕上げるまでに半日ほど掛かりましたが、最初からDoricoにて手作業で入力するよりは楽だったかと思います。

 

楽譜作成ソフトウェアにインポートした後は、様々な形でのカラオケ・トラックの制作が可能

 

このように、ひとたび楽譜作成ソフトウェアに入力しておけば、元のヴァイオリンのトラックをミュートするだけでピアノ伴奏のカラオケ・トラックが簡単にできます。

生徒が初心者であれば、ミキサーの設定により元のヴァイオリンの音を小さめに鳴らしておいたり、演奏テンポを落としたりすることも可能で、いくつかのバージョンをオーディオファイルにエクスポートし、それをメールに添付して生徒に送信することも可能です。

 

 

もし別の楽器や、歌曲の場合は、もちろん自由に移調した上で、同じことができます。

Doricoではバージョン6以降でDAWのようなループ再生機能が搭載されましたので、演奏が難しい箇所を繰り返し練習する場合にも役立つでしょう。

こうした楽譜作成ソフトウェアの機能をフル活用することで、ニーズに応じた音教材を自由に制作することができます。

著作権や「版面権」がある楽譜については、使用時にそれらの権利への適切な対応が求められますが、これらは楽譜スキャニング・ソフトウェアが真価を発揮するシーンの一つかと思います。

 

2.アレンジに応用(バッハの無伴奏チェロ組曲をエレクトリック・ギター向けにアレンジ)

 

楽譜スキャニング・ソフトウェアで読み込んだ楽譜を楽譜作成ソフトウェアにインポートすれば、あとは自在に編集できますが、これには音域や楽器の変更も含まれます。

本章では、この特性を活用して、チェロのソロ曲をエレクトリック・ギター向けにアレンジしてみます。

使用する楽譜は、ペトルッチ楽譜ライブラリー(ISMLP)から入手したバッハの無伴奏チェロ組曲(6 Cello Suites, BWV 1007-1012 (Bach, Johann Sebastian))より抜粋した「Cello Suite #5 in C Minor, BWV1011 – 3. Courante」です。

 

 

 

(1)PDFファイルをPhotoScoreにインポート

 

単声部のメロディを1本の譜表で表現したこの楽譜は、PhotoScoreではほぼ100%の精度で読み込むことができました。

少々気になったのは八分音符のアウフタクトですが、読み込まれた楽譜上に現れた「3/4、非表示1/8、非表示3/4」という表現から察するに、PhotoScoreではアウフタクトを拍子の変更で表現する仕様のようです※。

※PhotoScoreでは、非表示となる要素はグレーで表記されます。

また、アウフタクトで始まる曲は、最終小節(ここでは18小節)でその分を差し引くことで調整する場合が多いですが、PhotoScoreではその部分がエラー表示になっていることが分かります。

 

アウフタクト部分の処理が少々気になるが。。。

 

 

(2)MusicXMLファイルをDoricoにインポート

 

先ほどのセオリーに倣い、まずはこのまま何も手を加えずDoricoにインポートしてみましたが、最初のアウフタクトは何の問題もなく表現されました。

一方、最後の帳尻合わせの部分は、元の楽譜にあるような八分休符ではなく、四分休符として読み込まれました。(これはSibeliusでも同様でした)。

 

アウフタクトは問題なく読み込まれるが、最後の帳尻合わせ部分は要修正

 

この最後の帳尻合わせ部分は、楽譜作成ソフトウェア上で修正するのが楽で、かつ確実でしょう。

 

PhotoScore上でエラーが出ていたアウフタクト終わり部分は、楽譜作成ソフトウェアで修正する

 

 

(3)Doricoでタブ譜を追加する

 

楽譜作成ソフトウェアに読み込んだ後、楽器変更、オクターブ変更の上、タブ譜を追加

 

原曲の最低音はD2で、ギターの場合は6弦をドロップDにチューニングすることでこれは表現可能ですが、今回はエレクトリック・ギター向けに1オクターブ上げて、さらにタブ譜を追加してみました。

クラシック・ギターと異なり、特にロック・スタイルのエレクトリック・ギターには定番ソロ曲というものが殆どありませんが、これでソロ曲のレパートリーを簡単に増やせそうですし、これらは演奏テクニックや表現力を養うための練習曲としても重宝しそうです。

 

 

(4)楽譜制作を超えた「練習ツール」としての可能性

 

今回は取り上げませんでしたが、例えば他の活用アイデアとしては、ビ・バップ・ジャズのソロ・フレーズを採譜した『Charlie Parker Omnibook』を読み込んでタブ譜化するというのも面白そうです。

自分でタブ譜化の作業を行うことで、普通のギター教則本では学べないような運指やフレージングを、パーカーのフレーズを分析しながら学ぶことでき、ジャズ・ギターの学習者にとっては有効な勉強法になるのではないかと思います。

別の楽器のフレーズを演奏するというのは楽器一般におけるチャレンジングな練習方法の一つなので、これはギターに限らず、様々な楽器向けに応用できるでしょう。

この観点からは、楽譜スキャニング・ソフトウェア+楽譜作成ソフトウェアの組み合わせには、単なる楽譜制作を超えた「練習ツール」としての大きな可能性を感じます。

 

 

3.PhotoScoreデモ版と、関連ファイルのダウンロード

 

PhotoScoreのデモ版は、開発元Neuratron社の公式ウェブサイトからダウンロードできます。

▼ PhotoScoreデモ版のダウンロード(フル機能使用可能・保存不可)
https://www.neuratron.com/downloads2.asp

デモ版に関しては、インターネット上に簡単な説明書が公開されていますので、実際のご使用に先立ち、まずはこれを一読されることをお勧めします。

これにはMac版およびWindows版があり、原文は英語ですが、ブラウザの翻訳機能を用いることで、自然な日本語で読むことができます。

 

本記事のテストに用いたファイルは、以下からダウンロード可能です。ぜひお手元でその仕様をご確認下さい。

 

【読み込み元のPDFファイル】
IMSLP04323-Thais_Meditation_for_Violin_and_Piano.pdf
Bach_Cello_Suite_#5_in_C_Minor,BWV1011-3_Courante.pdf

【編集済みのPhotoScoreファイル】
IMSLP04323-Thais_Meditation_for_Violin_and_Piano.opt
Bach_Cello_Suite_#5_in_C_Minor,BWV1011-3_Courante.opt

【編集済みのDoricoファイル】
IMSLP04323-Thais_Meditation_for_Violin_and_Piano.dorico
Bach_Cello_Suite_#5_in_C_Minor,BWV1011-3_Courante.dorico

【DoricoからエクスポートしたMusicXMLファイル】
IMSLP04323-Thais_Meditation_for_Violin_and_Piano.musicxml
Bach_Cello_Suite_#5_in_C_Minor,BWV1011-3_Courante_Cello.musicxml
Bach_Cello_Suite_#5_in_C_Minor,BWV1011-3_Courante_E.Guitar.musicxml

 


著者紹介

小池太郎(株式会社ミュージック・テック・ソリューションズ 代表取締役)

Berklee College of Musicで映画音楽作曲とジャズベースを学ぶ。LA拠点の作曲家チームにて『バイオハザード6』等の作曲/オーケストレーション・マネジメントを担当。2014〜2022年に株式会社エムアイセブンジャパンに在籍、Finale 25,26,27日本語版ローカライズとサポート業務に携わる。2023年に株式会社ミュージック・テック・ソリューションズを設立。現在は同社にて、DoricoやSibeliusを中心に楽譜作成ソフトウェア専門の有料テクニカル・サポートやレッスンを提供している。

https://www.music-tech-solutions.co.jp/

 

 

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