インタビュー & コメント

MOTU Digital Performer | 大橋莉子インタビュー

2012年から、当時現役高校生作家としてSUPA LOVEにて音楽作家としてのキャリアをスタートした大橋莉子さん。大学を卒業した現在に至るまで、乃木坂46やHKT48、アイドリング!!!、つばきファクトリーをはじめとしたアーティストに楽曲を提供し、急速にその存在感を印象付ける彼女は、キャリアをスタートした女子高生時代からMOTU Digital Performer(以下DP)ユーザーでした。今回は、DPを制作の軸とし、若くしてスタートした自身のキャリアの一部や、リスナーに強い印象を与える楽曲を構築する、そのマインドの一端についても話を伺いました。

 

Q:現役高校生にて作家活動をスタートされた経歴をお持ちですが、どのような経験から作曲、音楽制作を行われるようになったのでしょうか?音楽においての大橋さんの経歴について、教えていただけますか?

A:母が音大のクラシックピアノの講師をしていて、その影響もありクラシックピアノを4歳のころから始めました。ソルフェージュ、音楽理論はそのころ会得したんですけど、楽譜通りに弾いて、って言うような演奏が、自分に合わないように感じ出していって、、、8歳のころからテレビで流れるJ-POPを見て、聴いて。そういった音楽を耳コピして弾いたり、更にアレンジしたり、というようなことが得意だったんです。おのずとそういった音楽を好きになっていって。結局クラシックピアノは小学校四年生くらいで辞めてしまったんですけど、楽譜通りに演奏するのが嫌で、途中からはクラシックも自分でアレンジして弾くようになっていたんです(笑)。そういった気持ちを母に相談したら、案外すんなりと受け入れてもらえたんです。「クラシックは辞めても音楽は辞めないで、好きなことをやりなさい」って応援してくれるようになったんです。家には電子ピアノがあるんですけど、それを使って即興したり、作曲して、ピアノに内蔵していた録音の機能を使って、アレンジした演奏をMDに録音して、自分のアレンジを両親に聴いてもらって。というようなことをしていたんです。

 

Q:作曲に関して、そこからどのように次のステップに移っていったのですか?

A:よりいろんな音色で曲が作りたいと思い、鍵盤搭載のワークステーションシンセを14歳の時に、親に買ってもらいました。その中に作曲機能もあって、弾いた情報を重ね録りできる機能があったんです。今まではピアノだけの音色に親しんでいたんですけど、そこで色んな音を重ねるようになって、本格的に楽曲のアレンジをはじめるようになりました。当時は、その時に流行っていたJ-POPのような音を組み立てて、、、それが作曲という点では音楽的なステップでした。
当時の私の中では、ワークステーションシンセの中で曲を作る。ということが、作曲家の作業だと思っていました。当時はPCで作曲する、ということ自体も知らなくて。ワークステーションで制作して、その曲を採用してもらえるんだ、って思ってましたね(笑)。

 

Q:中学の時は部活はやっていたんですか?

A:弓道をやってました。中学生の時は東京都の選抜にも選ばれ、全国三位にもなれて、それぐらい部活一筋でした。作曲=自分の曲を両親以外の人に聴いてもらう、という意味で、大きな転機があったのは中学三年の夏。学校の音楽の授業で「オリジナルソングを作る」という夏休みの課題が出たんです。夏休み明けにクラスみんなで音楽発表会で披露する曲を決める投票があって……でも一票差で負けたんです。「私の曲が絶対ナンバーワン」と思っていたから、当然納得がいかなくて。一緒に作詞作曲していた仲良しグループで担任の先生に押しかけて。

そこから作曲に対する熱が生まれました。その一件があって、本格的にDAW、DP7を使って制作し始めました。

 

Q:高校生の頃はどんな女子高生だったんでしょうか?

A:部活と音楽、漫画(少年漫画)、アニメが大好きな隠れヲタク系JKです。小学校からの一貫校だったこともあり、受験がなかったので、好きな事や趣味に没頭できる毎日でした。友達と好きな漫画やアニメ、声優の話をしたりする普通の子なのですが、授業中騒いだり、先生をよく怒らせるような、ちょっと厄介な生徒でした。担任の先生に首根っこつかまれて、外に放り出されたこともあります、イマドキじゃないですよね!
ただ、ほかの子と違っていたことは「DTMをやっていること」「在学中にプロの作曲家に絶対なるという目標があること」事務所に所属しただけではプロの作家と呼べないので、曲が初めて採用されたときに、そこでクラスメイトに打ち明けました。首根っこつかんで放り投げた担任の先生も応援してくれていて、クラスのみんなの前で発表する機会を設けてくれました。応援してくれたクラスメイトや部活仲間、そして担任の先生には今でも本当に感謝の気持ちでいっぱいです。

 

Q:大橋さんの音楽観は、どういった方々の楽曲に影響されていたのでしょうか?

A:一番聴いていたのは浜崎あゆみさんで、特に聴いていたのは2011-2012年頃でしょうか。世間一般では歌姫イメージの印象がある方だとも思うんですけど、作詞、作曲もされていて、本当にすごい方だと思ってます。今も聞いています。アイドルだとAKB48さんを特に聴いていました。「大声ダイアモンド」とか「言い訳Maybe」とか、そういった楽曲を聴いて、そのころからリリースされたCDは全て買って、カップリングの隅々まで聴いてました。

 

Q:話は前後しますが、ワークステーションからPCベースでの作曲に移るきっかけはなんだったのでしょう?

A:本格的に作曲家になるにはどうしたらいいのか、考えているときに、親にも相談していたのですが母の勤務している音大の出身で、浜崎あゆみさんの曲を多く手掛けている中野雄太さんと、直接お会いできる機会をいただけたんです。そのときに相談させていただいたのですが「今はPCで作曲することが主流だから、まずはPC周りを用意することと、ソフトを選ぶことから始めたら?」というように伺って。その時、中野先生が使っていたのがDPだったのです。先生から「DPはシンプルながらすごく使いやすくて、MIDIの打ち込み、編集能力が非常に高く、色々他のソフトもあるけど、自分が使ったもののうち、結局これが一番良かったから一度使ってみて」というように勧めていただきました。その通りに買いに行きましたね。
オーディオインターフェイスも機材屋さんに、DPと互換性の高い製品は何ですか、ということを相談して、UltraLite mk3 Hybridを勧めてもらって、買いましたね。黒と緑のデザインがメカっぽくて好きです。

 

Q:インターフェイスもMOTUを使っているのですね。ではDPについて伺いますが、普段から特に使っている機能やコマンドなどありますか?

A:MIDIウインドウとドラムウインドウでの作業をよく行ってます。よく使うどころではなく、必ず使います。改めてDP画面レイアウトは作業効率の面でも秀逸だと感じています。他のソフトだとピアノロールで打ち込むケースがほとんどだと思うんですけど、見にくかったり、書き間違えたり、ストレスが多いのですが、これならすごく簡単で楽しい。DPはMIDI編集に関してたくさんの方法が設けらてるので、便利に感じます。基本的に曲作りの上で、ピアノをいれるので、良いテイクだけどミスタッチしてしまった部分の修正や、欲しい音、ベロシティの変更などが一発で簡単にできる。打ち込んだ下にベロシティが高さで表示されるので、直感的に操作できるのがポイントです。

MIDIウィンドウ

ドラムウィンドウ

 

ドラムウインドウは、ペンでポチポチと書けるので、ゴーストノートを打つにしても、ベロシティやほかのエンベロープにもアクセスできるので、絶対に使うポイントです。
それと機能面ではないですけど、気分転換や、曲の雰囲気に合わせてテーマを変えて使いますね、結構な頻度で変えていると思います。形から入るタイプでもあるので、カラーはコロコロ変えてます。

 

Q:オーディオはあまり扱わないですか?

A:EDM系のオーディオサンプルを張り付けるときにオーディオトラックは使います。あとは、仮歌を自分で入れることがあるんですけど、その時にも、DPのピッチ編集機能を扱います。簡単に、複雑な編集もできるし、音質処理の面でも、他のピッチ補正ソフトを扱う必要性を感じていないですね。

ウェーブフォームエディターのピッチ編集画面

 

Q:DP内蔵のプラグインは何をよく使っていますか?

A:制作の上で絶対に使っているのが、Poly Synthのデフォルト音。シンセメロとして使っています。それとModuloのプリセットも、なんとも言えない切なさがあって、バラード系のデモに使います。
主要なサードパーティプラグインも使っているんですけど、ボーカル処理にはDPに搭載している、リバーブ、ディレイのeVerb、ProVerbもよく使います。ダイナミクス系ではMW Limiterを使います。

PolySynth

ProVerbMW Limiter

 

Q:ほかによく使うプラグインはありますか?

A:シンセ系の音源なんかもあるんですけど、ドラム周りの音源には必ずAddictive Drumsを使っています。音がいいこともそうですが、Addictive DrumsのMIDIパターンはすごく重宝していて、イメージに近いものを選んで、そこからアレンジを加えて使うケースが多いです。

 

Q:Addictive Drumsでよく使うキットはありますか?

A:まずデフォルトのスタートアップキットから始めることが多いんですが、案件によってはマシーンキットも使いますし、ピース毎に差し替えてサウンドを選定して使っています。ADはミキサーが基本的には常時表示されているので、操作もシンプルです。

Addictive Drums 2 キット画面

 

Q:DPを使ったことのない方へ、コメントをいただけますか。

A:上級者も初心者も、DPのMIDI編集を使ったらほかのDAWに移れないと思います。実質的に制作の上で1から100までDP上で細かく作り込めるので、納得の行く曲つくりのための最適なソフトだと思っています。

 

Q:では大橋さんのお仕事や、取り組みについて伺います。まず現在の活動状況と、今までの作曲活動について伺えますか。

A:今は主に様々なアイドルや声優に楽曲提供しています。
アイドルの分野だと、乃木坂46さん、HKT48さん、つばきファクトリーさん、アイドリング!!!さん。アニソンや声優の分野だと、春奈るなさん、悠木碧さん、岡本信彦さん。もともと女性アイドルグループやアニメがすごく好きだったので、今の活動はすごく充実しています。最近では乃木坂46さん「行くあてのない僕たち」、つばきファクトリーさん「低温火傷」、2018年7月18日発売、次のSg「純情cm」などのマイナー歌謡アップナンバーがとても評判みたいです。自分も、そういう憂いや切なさのある楽曲が好きなので、そう言っていただけてとても嬉しいです。聴く人が聴くたびにレベルアップできるような攻撃型メロディを書くのが、使命だと思っています。

乃木坂46
『裸足でsummer』
M-3:「行くあてのない僕たち」
作曲: 大橋莉子

 


つばきファクトリー
『低温火傷 / 春恋歌 / I Need You ~夜空の観覧車~』
M-1:「低温火傷」
作曲:大橋莉子 編曲:近藤圭一

 

Q:作家業を営んでいる中で、普段から特に気をかけていることなどありますか?

A:絶対に思い付いたメロディを逃さないようにしています。スマートフォンのボイスメモを扱っているんですけど、街角であろうが、人に見られていても、寝る前や起きたすぐあとでもボイスメモに収録するようにしてます。メロディって、私の中で砂時計の中の砂のようなものだと思っていて。砂時計の砂って落ちる瞬間に真ん中に集まっていくじゃないですか。そこでスポットライトが当たっているものだとすると、逃してしまうと次に出てきたメロディに埋もれてしまうので、思い付いたメロディは思い付いた瞬間に記録するようにしています。
そういったボイスメモをDPにMIDIとして弾き直してプロジェクトとして保存しています。
学生時代は授業中、ルーズリーフの端にメロディを書いていました。あと、好きな音楽をとことん見つけて、聴き込むこと。制作のヒントになるものが隠れていますから。
また、コンペに出すデモのアレンジも全て自分で手がけていて、ミックス、マスタリングにおいて全部をDPで完結しています。今の時代、コンペではアレンジも込み込みで聴かれるので、細かい部分まで編集できるDPには本当にお世話になっています。

 

Q:今後の活動展望について伺いますが、今後手掛けていきたいと思っている楽曲や、目標とされていることはありますか?

A:中野雄太さん、井上ヨシマサさん、俊龍さんのような、疾走感がありつつも、どこか切なさや、哀愁であるとか、歌謡性のあるような楽曲が好きで、自分もそういった楽曲を作りたくてこの業界に入った経緯があるので、その部分はこれからも大事にしていきたいと思っています。作家活動もやりつつ、音楽を主軸としたほかのコンテンツにも着手したいと思っています。例えばアイドルを主体としたアニメの劇伴なんかもそうですけど、劇中のアイドルやキャラクターが歌う楽曲に、自分の曲を提供したいと思っています。
それと、私「大橋莉子」の色が強いアーティスト・アイドルを手掛けたいですね、音やメロディだけで判別できるくらいのオリジナル性のある曲を世に出していきたいです。作詞作曲オンリーではなく、アレンジもどんどんやりたいし、もちろんプロデュースもやりたいです。形ある理想としては、いつかレコ大の作曲賞も取りたいです。

 

Q:最後に、大橋さんのように若くして作曲家を志す方や、学業と併行して作家業を行う方々に対してのアドバイス、コメントをいただけますか?

A:私自身の経験だと、学生時代にDPを使い始めて、曲をどんどん作っていったんですけど、実はその毎日って高校生ながら大変でした。女子高生時代、レコーディングには制服で行っていましたし、機材を買うためにバイトもしてました。機材代って高校生にとってはやっぱり高額ですよね。ただ、私自身は自分の好きなこと、活動に親の情けを受けたくなかったので、バイトしてプラグインや機材を買い加えていたんです。そんな状況だったので、学校行って、バイトして、帰ってから制作を進めて。毎日クタクタだったんですけど、作曲が好きだからこそ、そんな状況でも続けられていて。作曲して、いつか自分の好きなアーティストに歌ってもらうんだ、という強い気持ちでいたのと、絶対に自分の作る曲は世界一良いんだ、という気持ちでもいたので、学校で疲れていようが、バイトで疲れていようが、その気持ちで取り組んでいました。私は今年大学を卒業したのですが、DPや他の機材、プラグインでも学割が適用されるものがありますよね。そういった特権は有効に使ってもらいたいですよね。

それと生楽器のアレンジRECには、和声学・コードワークは必須です。私は事務所に所属してから、音大の先生に頼んで必死で勉強しました。

作曲に興味がある人は、私のようにアイドルやアニメなどのカルチャーが好きな方もとても多いので、その熱をありったけ、思い切り作曲に注いで、いいメロディをとにかく作ってください!

 

お忙しい中、お応えくださりありがとうございました!
大橋さんの今後のさらなるご活躍に期待しています!

 


 

大橋 莉子(オオハシ リコ)

Lyrics/Compose/Arrange
平成8年生まれの作詞・作曲・編曲家。慶應義塾大学 文学部卒業。
独自のメロディセンスで巧妙に制作されたデモ楽曲はどれも秀逸で、すぐさま各所で採用され、圧倒的なスピードでPOPS界に名前を刻んでいる作家である。
乃木坂46、HKT48、アイドリング!!!、つばきファクトリー、悠木碧、春奈るな、岡本信彦などに楽曲提供している。

 

取材協力:有限会社スーパーラブ

 

 

 

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