私たちはOBERHEIMの製品が大好きです。それは創業者であるトム・オーバーハイムの信念が実現したという証明そのものだからです。
トム・オーバーハイムは過去に何度か失敗をしてしまったことがあります。(彼は最終的に高い代償を支払うことになりました。)
彼がミュージック・モジュレーターのようなシンセサイザーの拡張機器を開発していた頃に、ボブ・ムーグの元に赴き、もしボブにこのようなことを言っていたとしたら、どうだったのでしょうか?想像してみて下さい。
「私はシンセサイザー・モジュールを作りたいのですが、貴方は私よりも有名です。あなたのネームバリューを使用する権利を買うので、私の製品は良いものだ、と世間に広めてくれませんか?」
Oberheim 8 Voice
もし彼がアラン・ロバート・パールマン(ARP)に同じような取引をしていたとしたらどうでしょうか?
とても悲惨なことになっていたはずでしょうし、Oberheimの素晴らしいシンセサイザーはこの世に生まれてこなかったことでしょう。
SEMは、前述したミュージック・モジュレーター(リングモジュレーター)やフェイズシフターなどの、シンセサイザーの補助的なデバイスを手がけてきたトムが、本格的なシンセサイザー開発の領域に踏み込んだ時代の最初の製品の一つです。
SEM(Synthesizer Expander Module)は、基本的にOdysseyのような既存のARPシンセサイザーを強化するために使用される、もう一つのアドオン・デバイスであると考えられていました。
Oberheim 8 Voice
SEMのサウンドは、ローパス、ハイパス、バンドパス、バンド・リジェクトの12dBフィルターを搭載した完全なシンセ・セクションで構成されており、非常に卓越したものでした。
また、フィルター・モードの切り替えが他のシンセ・メーカーが採用している切り替え式ではなく、シームレスであったことが独自の強みとなっています。
2つの同期可能なVCOがあり、それぞれのオシレーター・タイプはバランス・ノブを使用してノコギリ波とパルス波間を滑らかに変化させることが可能で、また、パルスの幅を10~90%の間で変調させることができました。
VCOとVCFのエンベロープ・ジェネレーターは、Minimoogと同様のシンプルなアタック、ディケイ、サステインです。
SEMは自己完結型のシンセサイザーでありましたが、2ボイス、4ボイス、8ボイスの様々な構成にて販売され、その後の本格的なOberheimインストゥルメントのバックボーンとなりました。
Oberheim 8 Voice
私たちはSEM、8 Voiceの両方を共に愛しています
後者(8 Voice)は、8台分ものSEMを全て一貫したサウンドに設定し、それらを確実にチューニングするという意味では、あまりにも巨大で扱いにくい楽器です。しかし、正しく設定を行うことができれば、1970年代のロサンゼルスでは必須だった、リッチで光沢のある滑らかなサウンドを提供してくれます。しかし、私たちのお気に入りは、8 Voiceをユニゾンモードにして、それぞれのSEMを異なる音にチューニングする使い方です。
熱心なシンセサイザーのファンなら誰でも知っていることでしょうが、このSEMの4ボイス・バージョンは「Love Don’t Live Here Anymore」を含む、ローズ・ロイス(Rose Royce)の多くのトラックのバックボーンとなっていました。
また、ジャム&ルイス(Jam & Lewis)、スーパー・トランプ(Supertramp)、808ステイト(808 State)、Weather Reportの代表曲のバードランド(Birdland)に於けるジョー・ザヴィヌル(Joe Zawinul)、パット・メセニーの盟友であった故ライル・メイズ(Lyle Mays)などのスクエア・ウェーブのリード・サウンドにも使用されました。
そして、カナダの伝説のバンド、ラッシュ(Rush)は、4 Voiceが本当に多才でパワフルなシンセサイザーであることを証明してくれました。
もしあなたが良い状態のOberheim SEMコンフィギュレーション機器を探しているのであれば、そのために高額な支払いをする覚悟が必要です。これらは本物のコレクターズ・アイテムであり、非常に高い価値があるためです。単体のSEMであっても価格は高く、他の機材と連動する方法を見つけなければならないでしょう。
最後に
トム・オーバーハイムが2011年にリメイクしたSEMをリリースしたという事実は、この楽器の愛らしさと純粋な音楽性を証明するものなのです。