インタビュー

砂原良徳に訊く!TESTSET x MOTU UltraLite mk5 / M4 インプレッション&インタビュー

砂原良徳ほど「音そのもの」に向き合い続けてきた作り手も少ない。電気グルーヴでの活動を経て発表した『LOVEBEAT』(2001年)は、リリースから25年を経た今も語り継がれ続ける名盤であり、2021年には自らの手でミックスとマスタリングを施し再構築したOptimized Re-masterをリリース。マスタリング・エンジニアとしての顔を持つ同氏ならでは作品だ。

そして現在活動するLEO今井、白根賢一、永井聖一とのバンドTESTSET。2025年10月の2ndアルバム『ALL HAZE』以降はライブが続き、2026年7月にはバンドの出発点でもあるLIQUIDROOMの22周年公演、そしてFUJI ROCK FESTIVAL ’26のステージにも立った。

そのタイミングで砂原氏のシステムに新たに加わったのがMOTU『UltraLite mk5』と『M4』だった。ステージ上で、そしてスタジオでの制作で、実際に何が変わったのか。「音が良い」とはどういうことなのかという話にまで踏み込みながら、話を伺った。

 

 

音源とライブの一番大きな違いはドラム

 

ー 先日(2026年7月)のLIQUIDROOMでのTESTSETのライブにお伺いさせていただきました。素晴らしい演奏をありがとうございました!

砂原:いえいえ、こちらこそありがとうございました。

ー フジロックでのライブは配信で拝見させていただきました。公演でのご自身の手応えや感想を教えていただけますか?

砂原:ライブ自体はいつも通りという感じでした。ただ、新しい機材を導入したタイミングだったので、「ちゃんと動いてくれるかな」という心配はありましたが、結果的にはまったく問題なくできました。TESTSETになってからフジロックやサマソニなどの大きめのフェスには4〜5回出演しているので割と慣れてはいましたが、とりあえず問題なく終わってよかったです。あとフジロックでは配信があったので、来られなかった人にも見てもらえたのはよかったですね。

 

 

ー LIQUIDROOMとフジロックでは会場規模も環境もかなり異なると思いますが、音の聴こえ方や低音の出方などで演奏中に意識された点はありますか?

砂原:LIQUIDROOMは昔からTESTSET以外でもいろいろな機会でやっているので、音には割と慣れています。フェスはいろんな会場がありますが、90年代などと比べると音響システムはかなり進歩しましたし、エンジニアのレベルも全体的に随分上がっていると思います。中のモニター環境が悪い会場もたまにありますが、外音に関しては全体的に随分良くなっていると感じますね。

ー ライブを拝見して印象的だったのが、音源とライブの音に良い意味でギャップがない点でした。ドラムやギター、シンセを含め再現度が非常に高かったのですが、コンピューターに任せている部分と実際に演奏している比率はどれくらいでしょうか?

砂原:曲によっても変わりますが、コンピューターに任せているのは16分のシーケンスがずっと続くような音や効果音、あとは音が厚い曲のウワモノで人手が足りない部分などです。太い骨組みの部分は生演奏で、細かな装飾や刻みはコンピューターという役割分担ですね。たまに拍の確認などでコンピューターを回さず4人の生演奏だけで合わせることもありますが、意外と成立するんだなと思うことがあります。ただ、4人だけでは手が足りない細かな部分を補うためにコンピューターが必要になります。

ー リリースされている音源を超えるような、音に迫力や繊細さを感じるほどの体感を受けました。

砂原:僕の意図としては、一番大きな違いは生ドラムですね。レコーディングでも生ドラムを使いますが、多くの曲は打ち込みと生ドラムのミックスです。ハイハット系のウワモノを有機的に聴かせるために生が必要だったり、機械の平坦さに味付けをするためにキックやスネアを生と打ち込みで混ぜたりしています。それがライブになるとほぼ生ドラムだけになるので、その生々しさやライブ感を楽しんでほしいという意図があります。

ー ライブ用シーケンスに関して、音源と差し替えている部分や音色の変更はありますか?

砂原:一部を生に差し替えた際にうまく成立しないものに関しては、音色を差し替えたり足したり引いたりしています。ただ、アイコン的になっている印象の強い音色は曲の一部のようなものなので、オリジナルのまま使っています。

ー 楽曲制作の段階で、最初からライブを想定して音の鳴り方を意識して作ることはありますか?

砂原:TESTSETの初期は少し考えていました。「こう作っちゃうとライブの時どうしよう」と。でも、それをやると「こういうことをやってみたい」という衝動を制限してしまうので、去年リリースした『ALL HAZE』のときは演奏できるかどうかは後で考えようというスタンスに変えました。アルバム内の「Coptic Feet」というドラムンベース調の速い曲を作っている時も「これ演奏できるかな?」という話になりましたが、賢ちゃん(Dr.白根賢一)の演奏技術もあるので結果的になんとかなりましたね。

ー ライブのマニピュレートや音源作成も砂原さんが担当されているのでしょうか?

砂原:そうですね。そう考えると僕は仕事の雑用が多いですね(笑)。そのあたりは全部自分でやっています。

 

 

LOVEBEATのマスターはDATへの一発録り

 

ー 砂原さんのソロアルバム『LOVEBEAT』についてもお伺いしたいです。リリースから25年が経ちましたが、当時実際に使われていたコンピューターやDAW、オーディオインターフェースなどの機材を教えていただけますか?

砂原:コンピューターはMacのG4です。『LOVEBEAT』はLogicを使い始めた最初の作品ですね。それ以前はVision、その後にCubaseを使っていましたが、オーディオを本格的に扱う流れになってLogicを選びました。オーディオインターフェースはDigidesign Digi 001です。

ー 2021年に『LOVEBEAT (Optimized Re-Master)』がリリースされましたが、現在の環境で聴き返してみて感じることはありますか?

砂原:リマスターの際は当時の音の特性を活かしつつ意図を反映させようとしましたが、元の音自体が20数年前のものなので、そこをいじりすぎるとリミックスになってしまいます。そう考えると当時の最先端の音というわけではありませんが、極端に新しさを狙ったサウンドは時間が経つと古くなりやすいんですよね。新しくも古くもないものの方が、時間が経った時にフラットに聴ける。オリジナルの『LOVEBEAT』を作っていた時も「最先端のサウンド」を強く意識していたわけではなく、自分の中のスタンダードを作ろうとしていたので、そういう意味では古くなっていないかなと思います。

ー 当時、青木孝允さんや渋谷慶一郎さんなどのアーティストが登場し、日本の電子音楽シーンの盛り上がりをリアルタイムで感じていた記憶があります。そのような当時の音楽シーンを意識されていましたか?

砂原:あの頃は渋谷くんや青木くん、半野(喜弘)くんたちが先端を走っていましたよね。自分より若い世代ですし、彼らと同じ土俵で勝負しても仕方がないので、エレクトロニカのブームからは一歩引いたスタンスをとっていました。ただ、グリッチノイズを音楽的に扱う手法は一時的な流行にとどまらず残っていくだろうと感じていたので、手法として通過しておく必要はあると考え、次の『LIMINAL』というアルバムでは少しそういった要素を取り入れました。

ー LOVEBEATにはクラフトワークのようなクラシックなテクノサウンドの質感も感じられます。

砂原:テクノクラシックに回帰しようとすると、どうしてもクラフトワークのような音に近づく部分はありますね。YMOの曲は他の楽器でも演奏できる曲が多いですが、クラフトワークはシンセサイザーでないと良さが出ない曲が多い。そういう意味でクラフトワークは非常に「テクノ的」ですし、クラシックを意識するとそこに近づいていく感覚があります。

25年前と現在を比較して、制作環境のクオリティの差は感じられますか?

砂原:ものすごく感じます。90年代後半から『LOVEBEAT』を作っていた時期はスタジオが徐々にクローズし、DAWへ移行していく過渡期でした。当時のDAWやデジタル機器の音を聴いたときは、「これから先ずっとこの音質で音楽を作っていくのか」と絶望的な気持ちになりました。なのでLOVEBEAT制作時のマスターはDAWでは無くDATを使っています。DAWのオーディオ録音は信頼できるレベルではなかったので、コンピューターはほぼシーケンサーとして使い、一発録りでDATに落としていました。サンプラーもソフトウェアではなく2台のAKAI S3000XLを使って、シンセなどのフィルターを手動で動かしながらライブ録音するような手法で作っていたんです。

ー 当時使っていた機材で、現在も使われているハードウェアシンセなどはありますか?

砂原:当時のものは残っていないですね。『LOVEBEAT』制作時はJUNO-106やSH-101、ARP Odysseyなどをサンプリングして使っていましたが、実機は手放しました。Prophet-5も持っていましたが、MIDIの追従性や出力ゲインの低さが気になって手放してしまいました。

ー 最近の制作はソフトシンセが中心でしょうか?

砂原:これまではほぼソフト中心でしたが、最近はまたハードシンセを使い始めています。KORGのminilogueやprologue、あとはMoogのMatriarch、RolandのSYSTEM-8などを導入しています。

ー 再びハードシンセを導入された理由はありますか?

砂原:DAWの音質が劇的に進化して、自分の思い通りのクリアで抜けの良い音を作れる領域まで到達したからです。満たされた結果、今度は逆に少し音を汚したり、発音タイミングを揺らしたりしたくなってきた。それは演奏で表現するものではなく、プログラム上で意図的にヒューマナイズしたり、テープシミュレーターを通したりする訳ですが、ALL HAZE製作時からそのような表現をするモードに入っています。

ー 例えば、ディアンジェロやJ・ディラのようなアーティストが実践する生演奏の揺らぎを取り入れるアプローチとはまた違うのでしょうか?

砂原:彼らのような肉体的なグルーブを表現するというよりは、頭の中にあるアイデアをデータ上で緻密にコントロールして「一定ではない揺らぎ」を作る感覚ですね。

 

 

MOTUは価格、デザイン、音質、安定性のバランスが素晴らしい

 

 

ー 機材についてお伺いします。今回のライブではMOTUのUltraLite mk5とM4を使用されています。それぞれの役割を教えてもらえますか?

砂原:M4は普段DJをする際のオーディオインターフェースとしても使っています。以前はMOTU UltraLite mk3やmk4を使っていましたが、M4が発売された時にデザインが良くて購入しました。実際に使ってみたら音も非常に良かったです。TESTSETのライブでは生演奏用シンセの他に、プラグインシンセの出力用としてM4を使い、UltraLite mk5は4パートのシーケンスを出力するために使っています。
MOTUの機材は価格、デザイン、音質、安定性のバランスが素晴らしいと思います。特にM2/M4はこの価格帯でこのクオリティが出せるのは本当にレベルが高いですし、誰もが高音質な環境を手に入れられるすごい時代になったと感じています。

 

 

ー ライブ用機材で最も重視しているポイントは何ですか?

砂原:コンパクトさ、一定以上の音質クオリティ、そして何よりも「安定性」です。現場で止まったりトラブルが起きたりするのが一番困るので、環境変化や電源の質に左右されず安定して動いてくれることが最重要ですね。MOTUはそのあたりのバランスも非常に良いです。
スタジオではオーディオインターフェースを内蔵しているミキサーをコンピューターに直接繋いでいますが、シンセなどの外部音源を取り込む際は、UltraLite mk5を経由してミキサーに入力しています。

ー UltraLite mk4からmk5に変更されて、違いは感じられましたか?

砂原:まず起動が圧倒的に速くなりました。mk4は立ち上がりが少し遅く不安な部分がありましたが、mk5は格段に速く安定しました。メーターも見やすくなりましたね。CueMix 5のミキサー側での音作りはせずDAW側でパラアウトして完結させていますが、動作の信頼性が上がったのは大きいです。

ー オーディオインターフェースのレイテンシーやバッファサイズの設定について、制作時とライブ時で意識していることはありますか?

砂原:制作時は反応速度よりもマシンの負荷軽減を優先してバッファサイズを大きめに設定しています。ライブ時はプラグインをリアルタイムで弾くのでレイテンシーが気になりそうですが、長年DAW環境で演奏してきたので身体がレイテンシー込みのタイミングを覚えてしまいました。むしろレイテンシーのない実機のアナログシンセを弾いた瞬間の方が、音が速すぎて違和感を覚えるくらいです(笑)。

 

 

リマスタリングを始めたきっかけは中学生時代にダビングしたカセット

 

ー 近年ではレコードやカセットテープなどのアナログ媒体の需要が大きくなっており、リスナーの再生環境も多様になっているように思います。そのような点で作品制作における音作りで意識されていることはありますか?

砂原:以前はやっていましたが、現在ではデジタルとアナログなどのメディアごとでマスターを変えることはあまりありません。最近はアナログのカッティング技術が非常に向上していますね。『LOVEBEAT』のアナログでテストプレスを聴いた時も音の良さに驚きました。リマスタリングやカッティングでお世話になっているバーニー・グランドマン・マスタリングには昔から信頼を寄せています。

ー プラグインやDAWの進化により作業が効率化された反面、音楽を制作する上で難しくなった点はありますか?

砂原:選択肢が多すぎることですね。ディレイひとつ取っても無数のプラグインが存在するので、自分に合ったものを探すのが昔より難しくなっています。ただ、作業自体は圧倒的に楽になりました。昔のようにバグに悩まされることもなくなりましたし、現代の制作環境は本当に恵まれていると思います。

ー これからDAWで音楽制作を始めるクリエイターが、最初に投資すべきものは何だと思いますか?

砂原:感性を磨くことですね。機材のボリュームノブは誰が回しても同じように数値が上がりますが、「どの位置にするか」を決めるのは人間の感性です。
自分の集中できる環境を整えたり、余計なノイズに惑わされないようにしたり、時にはあえて音楽を聴かない「飢餓状態」を作って音楽への欲求を高めたりすることが大切だと思います。

ー 楽曲のインスピレーションはどこから得ることが多いですか?

砂原:音楽以外の体験から得ることが多いです。何かを見たり体験したりした時の感情や状態を音楽で表現するにはどうすればいいか、逆算して作っていくことが多いですね。

ー AIを使った楽曲制作についてはどう思われますか?

砂原:現時点では制作に使っていません。批判的なわけではなく、単に自分の要求を満たしてくれるレベルにまだ達していないからです。マスタリング後に試しにAIの方にマスタリングをやらせてみて「まだまだだな」と確認して遊ぶことはあります(笑)。音楽を作る作業自体が好きなので、そこをAIに任せてしまったら自分は何をすればいいのかという思いもありますが、今後ツールとして使える場面があれば取り入れる可能性はあります。

ー ご自身で聴く音楽をすべてリマスタリングされているという噂をお聞きしたのですが、本当でしょうか?

砂原:以前はよくやっていました。2002年頃、パソコンで音楽を聴いていて「昔聴いていた曲がなぜかつまらなく感じる」と思ったことがありました。そこで、中学生の頃にレコードからカセットテープにダビングした矢野顕子さんの『ただいま。』を聴いてみたらびっくりしたんですね。カセットテープなので音はカサカサなんですが、イコライザーやレベル調整のおかげで当時のコンピューターで聴いている音とは全然違い、非常に良い音で鳴っていたんです。圧縮や波形編集で音圧や質感を調整すればあの感覚が戻るのではないかと思い、持っている音源を一通り手作業でマスタリングし直しました。今でも必要であればやります。最近はDJ用に買った曲のステム(パート別の音源)を作成し、バランスや構成を再構築して書き出す作業を日常的に行っています。1曲に2時間くらいかかるので時間がいくらあっても足りないですね。

ー 25年前と現在で、音楽を作る上で「変わっていないこと」は何でしょうか?

砂原:「欲求」ですね。「こういうものを聴きたい」「こういうものを作りたい」という欲求そのものです。それはAIを使うにしても変わらない根本的な原動力であり、一番大切なものだと思います。

ー 現在のソロ活動や今後のご予定はいかがですか?

砂原:ソロアルバムの制作を進めていますが、数日前にメインのSSDが不調になり、復旧作業に追われていました(笑)。他にはDJやライブ活動などを並行して進めています。近々では福井で開催される「ONE PARK FESTIVAL 2026」への出演を予定しています。

ー 本日は貴重なお話をありがとうございました!

 


 

砂原良徳

1969年北海道出身のテクノミュージシャン、プロデューサー、マスタリングエンジニア。電気グルーヴ(91-99年)での活動後、ソロとして『LOVEBEAT』などをリリース。現在はTESTSETのメンバーとして活動中。

 

 

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